マリンスノーに祝福を | ナノ


▼ 赤玉


「え、獄寺イタリアに帰っちゃうの?」
「違ぇーよ! ただ帰るんじゃなくて、本土から十代目をサポートするんだ」
「……そっか」

 薄暗い路上で獄寺は誇らしげに言ってのけた。彼の話を整理すると、ボンゴレ九代目が獄寺を昇進させ、彼は明日からイタリアへ飛び九代目のサポートに回るらしい。
 でもあれだけツナにべったりだった獄寺が何故今になって九代目を取ったのか。おれはビアンキから彼の過去の鱗片を聞いたので、益々理解できない。
 彼女の話しによると、獄寺にとってツナは初めて自分を認めてくれた存在だった。

「どうして」
「あ?」
「どうしてツナの元にいないの?」
「頭使えよ。これは将来十代目のためになるんだぜ! ボンゴレを繁栄させれば十代目も動きやすくなるだろ」

 確かにそうかもしれない。頭では理解できる。けれど、

「ツナは寂しいんじゃないかな。獄寺がいなくなると」
「な……っ! 十代目は喜んでくれた! 自分のことみてーに!」

 睨みつけるようにおれを見つめて熱く諭す獄寺。おそらくツナが喜んだのは、面倒事が減るためだと思われる。何度も愚痴を聞いていたおれにはわかった。でも寂しいか寂しくないかとなれば、きっと別の話。

「獄寺はそれでいいの?」
「……何が言いたい」
「獄寺も、寂しいんじゃないかと思って」

 おれがそう言うと獄寺は目を丸くした。そして少しだけ笑う。ツナに向ける無邪気な笑顔じゃないけれど、ほんの少しだけ表情を柔らかくして笑った。

「十代目の為だ」
「……そう」
「てかお前、初めてだな」
「え?」
「自分から踏み込んできたの。いつもは人の話に深入りしないくせによ」

 言われてみればそうかも知れない。いつもなら「そっか」の一言で片付けていた話を、今は自分から踏み込んでいる。理由は分からない。でもきっと焦っているんだと思う。
 獄寺までいなくなったら、ツナの周りから人が減ってしまうから。

「ごめんな」
「なんで謝るんだよ」
「出しゃばって」
「別にいいんじゃねーの?」
「でも、」
「流石にいつもだとウゼーけどよ。たまには深入りしてもいいんじゃねー?」
「そうかな」
「そういうもんだろ」
「……そっか。ありがと」

 おれは長い放浪生活の中で、他人に関わりすぎない事を覚えた。面倒事やトラブルに巻き込まれる可能性を最小限に抑えたかったから。今でもその考えは変わらない。ただ獄寺にそう言ってもらえて、素直に嬉しい。

「あ! ライター忘れた……」
「ツナの家に?」
「戻るついでにもう一回挨拶でもしてくるか。お前はどうすんだ?」
「もう少し散歩してる。……あ、」
「あ?」
「おれの名前、千星っていうんだけど」
「……んなの知ってる」

 呼んでくれる気はないのか、それだけ言うと獄寺はツナの家に向かった。おれはそれと逆方向に足を運ぶ。まあ、獄寺がおれの名前を知っていただけ良しとしよう。

「そういえばおれも名前で呼んでないよな」

 長いこと嫌われてたから、呼ぶ機会がなかった。今ではすっかり定着してしまったけれど、隼人って響きは綺麗だと思う。
 次に会った時は呼んでみよう。一体どんな反応をするんだろうか。考えて、少しおかしくなった。
 ふと何気なく視線を前に持っていくと、おれは目の前の風景に違和感を覚えた。何かが変だ。見慣れた景色に今までにないものが混じっている。
 すぐにその正体が分かった。塀の上に置かれていた煙草のソフトケース。その圧倒的にインパクトが強いパッケージに、目を疑う。

「───っ、」

 急いでそれに近付き、見慣れすぎたケースを掴む。鼓動が徐々に早くなっていく。でも、どうして? これの持ち主は既にこの世にはいない筈なのに。
 中を覗くと一枚の紙切れが折り畳まれて入っていた。震える手をなんとかして、開き、読む。

「はは、」

 獄寺の名前を呼ぶ日は、どうやら永遠に来ないようだ。




20090222

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