マリンスノーに祝福を | ナノ


▼ Candy Time


「わ! すごいじゃん」
「こ、これくらいいつもの事だよ」

 久しぶりに正に会いに来てみれば、何故かテストの答案用紙と順位表を見せられた。丁度今日返ってきたらしい。まだ四月なので何を試すテストなのかは不明だが、順位表で入江正一の名前は上位に書かれていた。
 褒めるとそっけない言葉が返ってきたけど、少しだけ照れているようにも見える。きっとあれは今流行りのツンドラなのだろう。

「頑張ったな。えらいえらい」
「ちょ、子ども扱いするなよ!」
「褒めてるだけだよ」
「それがタチ悪いんだって……。あ、そういえば母さんからお菓子貰ったんだ」
「ほんとに?」
「うん。千星と分けて食べろって」

 そう言って彼は部屋の一角に置いてあったスーパー袋を指差す。
 正の母さんは、なにかとおれに構ってくれるいい人だった。父さんも優しいし、姉さんは目の保養だとか言って覗きにしょっちゅう来る。おれはパンダか。そうなのか。
 白と黒の愛くるしい動物は一旦追い出し、とりあえず貰ったお菓子をありがたく頂戴することにした。

「ありがと」
「ん」
「正はどれから開けたい?」
「どれでもいいよ」
「そっか。じゃあねー……これがいいな」

 持ち出したのはうさぎのキャラクターが描かれた、丸い筒の中に小さなチョコが入っているやつ。円錐形でピンクと黒の二色のあれだ。
 筒を開けるとポンと軽い音が鳴る。それを傾けて正の手のひらに中身を乗せた。ドバッと。

「うわっ! 多すぎ!」
「はは、ごめんごめん」
「半分あげる」
「ありがと」

 円錐形の小さな粒たちを口に放る。甘酸っぱいチョコレートの味が広がった。

「……なんか甘いの食べるとしょっぱいのが欲しくなる」

 手のひらに乗っているチョコを食べ終わると、正はポテチの袋に手を伸ばした。袋を開けようとするが、なかなか開かない。

「わ、爆発させないでね」
「わかってるって!」
「おれがやろうか?」
「いい……っ、! ほら、開いた」
「なぁんだ」
「なに? そのつまんなそうな顔は」
「コミカル要素が足りないなぁと思って」

 おれがそう言うと、そんなもの求めないで素早くツッコミが入った。結構重要だと思う。正は頭をもう少し柔らかく使うべきだ。

「ほら、千星も適当に食べて」
「ありがと。……──、辛っ!」
「そんなに辛くないと思うけど……。こういうのダメ?」
「だめだめ。無理。もう駄目」
「そこまで拒否らなくても」
「おれ苦手なんだよ。わさびとかなら平気なんだけど、唐辛子系はほんと無理」
「へぇ……」
「お菓子をわざわざ辛くする意味がわからない」

 菓子の甘さの重要性を噛みしめながら、さっきのチョコに手を伸ばしてすかさず口直しをする。
 それをぽかんとした表情で見ていた正は、何が面白かったのか突然くすくすと笑い出した。

「なんで笑うの」
「だって……千星って子どもみたいだ」
「なんか最近よく聞くな」
「そう?」
「うん。でもおれだって年齢的にはまだ未成年だから、子どもの部類に入るんだけど」
「いや、なんていうか……幼稚園児っぽい」
「え、そこまで?」
「普段は落ち着いてるから余計にギャップが」

 ギャップか。よく分からないがその一言で片付いみたいだ。まあ良しとしよう。正の可愛い笑顔も見れた事だし。
 その後も二人きりのお菓子漁り大会はひっそりと続いた。



20090127

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