マリンスノーに祝福を | ナノ


▼ 女の子の苦悩

 おれは生物学上、女だ。いくらこんな格好をしていても、それが変わるなんて天地がひっくり返っても有り得ない。
 故に体は女性の使命を果たそうとする。回りくどい言い方だけど、つまりはいくら男装をしていようと生理は来るって話だ。
 ツナの制服を勝手に拝借して並盛中に侵入する。おぼつかない足取りで向かう先は保健室。ああ、痛い。気持ち悪くて倒れそうだ。

「シャマルさん、います?」
「千星? なんでここに」
「お腹が痛いんです。なんとかして下さい……」

 向かいの椅子に座りぐったりする。シャマルさんは、珍しく動揺していた。確かに生徒じゃない奴が学校に現れたんだから当然だ。

「なんとかしろって言われてもな……、原因は?」
「──……、です」
「は?」
「っ、生理です」

 なんだか恥ずかしくなり、徐々に頬が火照っていった。痛みも手伝い、目には涙の膜が張られていく。

「その、いつもは全然痛くないんです。でも今日のは痛み止め飲んでも効かなくて。段々気持ち悪くなってきて……」
「ふーん。ちゃんと順調に来てっか?」
「不順気味です」
「そうか」

 そう呟いて片手で顎を撫でるドクター。確かに日にちがバラバラになったりと順調には来ない。でもこんな痛みは初めてだ。

「そうだよな。お前さんの場合は生活が不規則だから順調に来る方がおかしい」
「冷静に分析してないでどうにかして下さいよ……」
「ああ、そうだったな」

 そう言ってシャマルさんは棚から薬を取り出す。おれの手を引っ張り白い薬を二錠転がす。次にコップを持ち出して水を注ぎ、空いている手に握らせた。

「最後に薬飲んだのはいつだ?」
「明け方です」
「じゃあ平気だな。飲め」
「ありがとうございます」
「………ああ、ちなみにそれオレがさっき使ったコップだから」

 にやにや顔のおっさんの足を思いっきり蹴る。この人は保健医のくせに生理中はイライラしやすい事を知らないようだ。

「ナ、ナイスキック……」
「そういうのは口を付ける前に言ってほしかったです」
「ははは」
「あなたって人は……。そうだ、もう一つお願いしていいですか?」
「なんだ?」
「寝かせて下さい」

 正直ツナの家まで帰る自信がないから、出来れば少しベッドで横になりたかった。
 しかしシャマルさんは何を思ったのか、おれがそう言った途端に目を見開いた。

「何、千星誘ってんの?」
「……はい?」
「そんな事言ったらお前襲われても文句言えないぞ」
「別に誘ってるわけでも襲われたいわけでもないんですけど……。どうやったらそっちに変換されるんですか」
「げ、無意識かよ!」
「だからそんな気更々ないですって」
「っはー……。言動には注意するこったな」

 保健医はおれの腕を無理矢理掴んでそのままベッドまで歩いて行き、そこにおれの体を放り投げた。視界が一転して天井が広がる。
 急いで上半身を起き上がらせようとするが布団をガバッと頭から被せられて動きが止まった。

「うあ、」
「寝てろ」
「え?」
「ベッド貸してやる。だから休んでろ」

 それだけ言うと、シャマルさんはベッドを囲うように取り付けられている白いカーテンの端を掴んだ。

「あと、いくら無意識にでもあんな表情はしないこったな」
「はい?」
「……何でもねぇよ」
「はあ……」
「お前さんの生理痛の原因なんだけどよ、もしかしてストレスとかじゃねーか?」

 そう告げるとシャマルさんは完璧にベッドを隔離してしまった。カーテン越しの影がここから遠退いていく。
 ストレスか。最近色々考えているからな。主に今後の予定とか。

 しばらく眠っているとツナと誰だかわからない少年の声が聞こえた。どうやら怪我をしてシャマルさんに助けを求めにきたらしい。しかし男は診ねぇとキッパリ断られて追い出されたようだ。
 ──女で良かった。しみじみそう思った日常の1コマだった。



20090125

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