マリンスノーに祝福を | ナノ


▼ カウントダウン

 ツナは進級して今日から二年生になるそうだ。クラスが当日発表の為、普段よりもそわそわしている彼を見送る。
 その後は奈々さんに呼ばれて食卓へと向かった。そこにはティーカップが二つ用意してあり、おれは促されて腰を下ろす。

「ダージリンですか?」
「当たり。匂いだけで分かるなんて凄いわね」
「昔喫茶店で世話になっていたんで覚えちゃったんです」
「まぁ、そうだったの? なんだか素敵ね」

 ふわりと微笑む奈々さん。おれは右手でカップを持ち、口をつける。ストレートだ。茶葉の味がお湯にしっかりと溶け込んでいて美味しい。

「紅茶入れるの上手ですね。さすが奈々さん」
「うふふ、褒めても何も出ないわよ」
「はは、ツナも喜ぶと思いますよ」
「そうだったらいいわね。早く帰ってこないかしら。クラスも気になるし……話を聞くのが楽しみだわ」

 なるほど、上機嫌な理由はそれか。目の前の若奥様はルンルンと歌い出しそうな程軽やかな雰囲気を醸し出していた。

「ツッ君も中学二年生だなんて……本当に大きくなったわ」
「ツナの小さい頃ってどんな感じでした?」
「今とあまり変わらないけど……もう少し素直だったかしら」
「なるほど」
「でもやっぱり昔からあまり変わってないわね。少し引っ込み思案な所とか」

 つまり、今のツナをミニチュアにして子ども独特の素直さをプラスさせた感じか。やはり昔も活発ってわけではないようだ。

「でもリボーンちゃんが来た辺りから随分変わったと思うの」
「変わった?」
「えぇ、明るくなったわ。獄寺くんや山本くん、千星くんと友達になってからは毎日楽しそうだしね」

 ツナにとっては楽しいだけじゃなくかなりスリリングな日々だと思う。マフィア事情を知らない奈々さんの前で、口に出すことはしないけど。

「そういえばツナって千星くんがお泊まりに行っちゃうと『何やってるんだろう』とか『大丈夫かな』とか言うのよ」
「え?」
「寂しいんじゃないかしら? 兄弟がいないから千星くんといる時は楽しそうだし」

 ツナはそんなことを言ってたのか。初耳だ。かなり嬉しい。
 しかし、その後の言葉がおれを絶望へと突き落とす。

「ずっと居てくれるとツナもきっと喜ぶわ」

 目的を、思い出してしまった。あの土地を離れた意味。知らない土地に足を踏み入れた訳。ここに居る理由。そして、その先に待つもの。全てがイコールで結ばれる。
 たった一つの目的は、めまぐるしい日常に甘んじて頭の隅に追いやられていた。それに気付いてしまった今、もう後戻りはできない。

「千星くん?」
「……なんでもないです」
「これからも、ツナと仲良くしてあげてね」

 柔らかな笑顔を見せる奈々さんにごめんなさい、と心の中で謝罪をする。
 そう遠くない日に貴方の願いは叶わなくなるから。




20090124

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