▼ 桜ひらり
「いい花見になりそうじゃねーか」
「まだ早朝ですし最高の場所をゲットできますよ!」
武と獄寺が嬉しそうに言う。おれ的には早朝からご苦労さまって労いの言葉をかけたい。リボーンに呼び出されなければ今頃夢の中だったろうに。
その二人の真ん中にいるツナの表情は乗り気じゃない事を語っていた。仕方ない、リボーンとビアンキに半ば脅される形で場所取りに駆り出されたのだから。
「お、ラッキー! 一番乗りだぜ」
「これで殺されなくてすむ……」
「良かったなツナ」
誰一人いない広場には満開の桜。あまりにも多いので、広場が桃色に染まっているように見える。おれがツナの肩を叩いた瞬間、その中の一本の桜から人影が現れた。学ランを着用したリーゼント頭を見ただけで、あの集団を思い出す。
「この並盛木一帯の花見場所は全て占領済みだ。出ていけ」
「ああ?」
「おいおい、そりゃズリーぜ。私有地じゃねーんだしさ」
「武の言う通りだね」
「出ていかねーとしばくぞ」
威嚇をするように指をボキバキと鳴らす風紀委員。その姿は背景の桜とミスマッチだ。
そんなのお構いなしと言うように、うちの不良少年は相手の不良に蹴りをお見舞いする。クリーンヒットしたようで、蹴られた奴は地に伏せた。
「けっ」
「獄寺くん!」
「また派手にやったなぁ」
「騒がしいかと思えば君達か」
「ヒバリさんっ?」
どこからともなくやって来たのは、さっきの風紀委員の親玉だった。
恭弥は桜に背を預けてゆったりと立っていた。淡い桃色に彼の黒はよく映えて、まるで一枚の絵の世界だ。
「僕は群れる人間を見ずに桜を楽しみたいからね。彼に追い払ってもらったんだ」
気持ちは分かるよ。分かるけど、それを実行するのはどうかと思う。
「でも君は役に立たないね」
「委員長……」
「土にかえれよ」
「がはっ!」
「あいつ、仲間を…!」
「見ての通り僕は人の上に立つのが苦手なようでね。屍の上に立ってる方が落ち着くよ。──君もそうだろ?」
漆黒の瞳がおれを捕らえる。同意を求めるなよ。ツナ達が驚いてるだろう。
「どうなの?」
「どうなのって……どっちもごめんだよ」
「嘘はいけないな」
「嘘じゃない」
今のおれは、ね。
騒ぎを聞きつけたのか、シャマルさんとリボーンがやって来た。この顔ぶれを見るとあの時を思い出す。殺され屋モレッティさんがツナの部屋に来た日だ。なんか懐かしいく感じてしまう。
「会えて嬉しいよ赤ん坊」
「ヒバリ、オレ達も花見がしてーんだ。場所をかけてツナが勝負すると言ってるぞ」
「なんでオレの名前出すんだよっ!」
「ゲーム……いいね。じゃあ君達四人とサシで勝負しよう。お互いヒザをついたら負けだ」
どうやらおれも数に入っているらしい。高みの見物とはいかないようだ。あんまり物騒な事はしたくないのに。
「やりましょうよ十代目!」
「花見してーしな」
「やるの!?」
「大丈夫だ。その為に医者も呼んである」
ただし女性限定診察医だ。おれはともかく、こいつらはきっと怪我しても見てもらえないだろう。
恭弥にちょっかいをかけたシャマルは、トンファーの餌食になり早くも戦力外に。
「……?」
しかし飛ばされる瞬間に、おれにはシャマルさんの腕が不自然に動いたように見えた。
「ぶっとばすっ!」
「君はいつもまっすぐだね。わかりやすい」
獄寺が飛びついたことにより、戦闘開始のゴングが鳴った。獄寺、山本と順調に相手にヒザをつかせていく雲雀恭弥。
しかしツナとの戦いの最中で、何の前触れもなく彼はヒザをついた。
「えっ……?」
死ぬ気弾を撃たれてパンツ一丁のツナが驚きの声を上げた。実はツナの死ぬ気状態を見るのは初めてだ。京子ちゃんやハルちゃんのそれとは違い、かなりの闘志を感じた。
「シャマルの仕業だ。あいつは殴られた瞬間にトライデント・モスキートをヒバリに発動したんだ」
あの不自然な動きにはやはり理由があったらしい。
彼の術は蚊を媒体として病気を操るものだとリボーンは言う。恭弥は桜クラ病という病気にかかり、桜の前では立っていられなくなったと告げた。
敗北した恭弥はその場から立ち去る。京子ちゃんやハルちゃん、ランボさんとイーちゃん、そして奈々さんとビアンキが合流し、ツナ達は全員で盛大な花見を始めた。
「……ふぁ」
みんなが楽しく騒ぐ中、眠気に襲われたおれは桜の木に体をあずけて目を閉じる。
花びらがひとつ、頬に落ちた。
20080124
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