マリンスノーに祝福を | ナノ


▼ あの人の鱗片

 部屋で小説を読んでいると、誰かが階段を上がる音が聞こえてきた。ツナが帰ってきたのだろう。でもその足音は一つではない。
 友達でも来たのだろうと思っていたが、また一つ足音が。それはツナの部屋ではなく、おれのいる空間に向けられる。
 そしてドアが開いた。

「こんにちは!」
「あ、ハルちゃん久しぶり。ツナに用事?」
「はい! イーピンちゃんに私のお古を持ってきたんです。それより……」
「ん?」
「玄関に女の人の靴があったんで、てっきり千星さんの彼女が来たのかと思いまして」

 はひ? と言って目をきょとんとさせるハルちゃんに、おれも首を傾げる。どうやらツナの部屋に上がり込んだのは獄寺や武ではないらしい。

「残念だけど、おれに彼女はいないよ」
「そうなんですか!? もったいないですねー」
「じゃあハルちゃんが彼女になってみる? 優しくしてあげる」

 わざと意地悪に笑ってみせると、彼女は頬を上気させた。

「ハ、ハルにはツナさんという将来を誓った相手がいるんですっ!」
「はは、冗談だよ。可愛いなー」
「もうっ! からかわないで下さいよ!」

 両頬に手を当てて、初々しい反応を見せる彼女。正しく恋する乙女というやつだろう。

「おれはその気持ちをいつから無くしてしまったんだろうなぁ」
「はひ? 何のことですか?」
「ん? ハルちゃんが可愛いなって話だよ」

 そう言えば顔を真っ赤にして黒のポニーテールを揺らし、部屋から出ていってしまったハルちゃん。多分ツナの部屋に行ったのだろう。
 すぐに読書を再開したおれだが、隣の部屋から爆発音が聞こえた。ランボさんの十年バズーカの音だ。そこまでは驚かないが、十年後ランボさんの意味不明な奇声が聞こえてきたので急いで部屋に向かう。

「ランボさん?」
「千星くん! 大人ランボが!」
「落ち着いてツナ。……リボーン説明お願い」
「さっき壁にぶつけた時に十年バズーカが故障したみてーだな」
「故障?」
「その結果精神はそのままで肉体だけが十年後と入れ替わっちまったんだ」

 つまり再構築過程でバグが発生したってことか。しかし恐ろしすぎるだろう、それ。

「一歩間違えば存在自体が消滅してたな……」
「んな物騒なっ!」
「本当だぞ? 精神だけ入れ替わったってのは疑問に残るけど、とにかくかなりの強運だよ。下手したら再構築失敗で量子が大気に散ってたし」
「随分詳しいんだな」
「まあね」

 リボーンの問いかけを軽く受け流す。こんな日常生活に不必要なことを脳に叩き込んだ昔の知り合いだった。
 家出したおれを飼っていたあの変態は今頃なにしてるだろう。と、今はそんなどうでもいい昔話は置いておこう。

「そういえはこの子は?」
「ああ、黒川花っていって、オレのクラスメートで京子ちゃんの親友」
「沢田、このイケメンは?」
「オレの家の居候の千星くん」
「こんにちは」
「どーも」

 とりあえず微笑んでみる。ツナの耳に手を当てて内緒話をする彼女。何を話しているのかは全く聞こえなかった。
 一人にぎやかなランボさんはしばらく放置の方向で。



20090118

/

[ 戻る ]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -