マリンスノーに祝福を | ナノ


▼ リトルワールド

 最近は自然に目覚めることが少なくなってきている。理由はもちろん、人為的に起こされるからだ。おれが昼間に起きるということは、日中に活動する人にとって夜中に叩き起こされるのと同じ意味を持つ。それが彼らはあまり理解していないらしかった。
 今日もそれだと思った。居候達が暇潰しで起こしてきたのかと思った。
 しかしベッドサイドに姿を現したのはいつものランボさんやリボーンでない。意外なことに、部下を引き連れた金髪の青年で。

「なぁ、リボーンどこにいるかわかるか?」
「……え?」

 寝起き独特のかすれた声。意外な人物の姿に、一瞬思考が停まってしまった。
 そういえば、リボーンは朝早くに出て行った気がする。その後すぐに寝ちゃったからわからないけど、野球帽を被ってジャージ着て、まるで野球をするような格好だった。……一つの仮説が思い浮かぶ。

「心当たり、あるかも」

 おれとディーノさんは部下を連れて真っ赤な車に乗り込んだ。



 階段を登った突き当たり。そこには屋上へと続く扉が待っている。それに手をかけてコンクリートの地面を歩き、眼下に広がるグラウンドを見渡した。そこには赤ちゃんと中学生二人の姿がある。

「おっ、いたいた」
「……というか、何してるんですか」
「ああ、組み立ててる」
「学校に物騒なもの持ち込まないで下さいよ」

 ここは日本ですよ。そして学校。狙撃用ライフルなんか持ち込まないでいただきたい。きっと教育委員会よりも先に恭弥が黙っちゃいないだろう。しかし今日は創立記念日だから、この敷地にはおれ達以外の姿はない。
 その風景を冷めた目で見つめるおれに、部下の方が飲みたいものを聞いてきた。どうやら買ってきてくれるらしい。
 その人は扉から出て行き、ライフルが組み立て終わる頃に戻ってきた。

「ほい、ボス」
「サンキューな」
「千星さんも」
「ありがとうございます」
「お、ココアか」
「はい。ディーノさんはコーヒーですか?」
「ああ。飲むか?」
「いえ、ブラックは飲めないんで」

 ディーノさんは受け取った缶をすぐに開けて口をつけた。おれは缶を両手の中で転がし、冷えた手を温める。

「そういえばそのライフルで何するんですか?」
「リボーンから頼まれてんだよ。山本武を狙撃しろって」
「どうして……」
「あいつを特訓するって言ってたな。その場所まで教えてくりゃ良かったのに」
「確かに。でも狙撃なんて……相手は普通の学生ですよ?」
「そうだよな。でもなんとかなるだろ! リボーンもついてるんだし」

 そう言ってひまわりのような笑顔を見せるディーノさん。まぁ元弟子が言っているのだから説得力はある。その場所にはツナもいるので、弟子を死なせるような真似はいくらなんでもしないだろう。
 いや、おれの師匠の場合は──

「お前顔色悪いぞ」
「あ……、大丈夫です」
「ならいいんだけどよ。そういえば千星はいつからツナの家にいるんだ?」
「去年の夏くらいからですね」
「家族はどうした」
「家出してから一度も帰ってないんでわからないです」
「身内は大事だぞ。一回だけでも顔を見せたらどうだ?」

 おれの瞳に、真剣な表情のディーノさんが収まる。
 一瞬言葉に詰まってしまった。家族は、基本的に好きだ。その中でも、兄は別格だ。大好きだった。
 おれはディーノさんに心配をかけないよう、微笑みを作る。

「ディーノさんは知ってますか?」
「ん?」
「世界っていうのは、大人になるにつれ広がることを。小さな子どもの世界はどうしようもない程に、狭い」
「……」
「世界の始まりは家族なんです。そこから友だちや親戚が加わって、社会が入り込んでくる」
「そうだな」
「だから家族以外に何も持たない子どものうちは、それが折れると世界の全てが壊てしまうんですよ」
「……千星」
「はい?」
「お前の世界は壊れちまったのか?」
「……これはただの例え話です。だから気にしないで下さい」
「無理しなくてもいいんだぞ」
「無理なんて──」
「じゃあ、悲しそうに笑うのは止めてくれ」




20090118

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