マリンスノーに祝福を | ナノ


▼ St.Valentine's day!

 今日はバレンタインデー。多くの女子と一部の男子がはしゃぐ日だ。それと同時に、沢田家の人間の生命に関わる日でもある。
 愛人に心を奪われている獄寺の姉……ビアンキは、まだ自分の作る料理全てに毒が混入することをわかっていないのだ。

「というわけで、今晩泊めてほしいんだけど大丈夫?」
「ははっ、いいぜ! 親父も喜ぶだろうし」
「嬉しいよ。ありがとう」

 リボーン達に見つからないように家を出て、おれは武の家の近くでちゃっかり彼を待ち伏せしていた。ごめんよツナ、フゥ太。あとランボさんとイーちゃん。おれは自分の身がかわいいんだ。見るからに危ないポイズンクッキングは食べたくない。

「……」
「ん?」
「いや、すごい量だなと思って」
「そうか?」
「なんか漫画の世界みたい」
「ははっ、そんなことねーよ」

 十分そんなことがあった。
 おれは思わず絶句してしまった理由。それは可愛いくラッピングのされた箱達が、武のカバンから己の存在を主張していたからだ。まるでワゴンセールのかごの中を見ている気分になる。

「明らかに入りきってないよね」
「ん? あぁ。仕方ねぇな」

 何が仕方ないのだろうか。武の胸のうちはわからないが、女の子に人気があることだけはよくわかった。確かに人当たりはかなり良いし、スポーツマンだし爽やか三組なのでモテるだろう。最後のに意味はない。

「ちなみに武って何組?」
「ん? どうした突然」

 おれの質問にあどけない表情を浮かべるモテ男くんだった。



「ただいまー」
「こんにちは」
「おけえり! 千星君久しぶりだな! 元気だったか?」

 にぱっと笑って迎えてくれた武の父親は、相変わらず眩しい笑顔でオレ達を迎えてくれる。今日も寿司を奢ってくれるようで、腹が減ったら降りて来いと言ってくれた。何を食べようか、今から悩んでしまう。それはとても幸せな悩みだ。
 武の部屋に上がると、彼はカバンを無造作にひっくり返し、愛の結晶を落としていった。パラパラでなく、ドサドサという音が立つ。

「うわー……よくこんなに詰め込んだな」
「まあな。千星も食う?」
「え?」
「こんなに食いきんねーし」

 そう言って一つの箱を取り出す武。おれは武の好意に、首を横に振った。

「武のために作ったチョコだもん。貰えないよ」
「遠慮すんなって!」
「いや、なんか呪われそうだし」

 愛は怖いんだぞ、愛は。そう呟いたおれに、武はただ豪快に笑うだけだった。サバサバしているこの子は、その粘着性を永遠に理解できないだろう。

「とにかく一人で食べなよ」
「でも千星甘いもん好きだろ?」
「う、」
「少しくれー大丈夫だから、な?」

 爽やかな笑顔で、首をかしげながらおれを見つめる。その仕草に、一瞬心臓が跳ねてしまった。反則だろう、それは。チョコを贈った子が見たら失神するかもしれない。それほどの威力があった。

「……食べない」

 プイとそっぽを向いたおれに武は困ったように笑う。相手の子に失礼だから、おれはここで意地を見せた。ついに武は諦めたらしく、無言でガサゴソとラッピングを開け始める。
 そして中に入っていたトリュフに手を伸ばし、親指と人差し指でつまむ。それを自分の口元へと運んでいった。ぼーっと見つめるおれに、武はニヤリと笑みを浮かべる。
 そして次の瞬間、手の進行方向を素早く変えた。

「ほらよ」
「!」

 唇に、トリュフを押し付けられた。突然の出来事におれは無防備になり、うっかりそれの侵入を許してしまう。
 口には柔らかな感触と甘い味が広がった。

「うまい?」
「……ひきょーもの」

 してやられた。眉をしかめるおれに、武は悪戯を成功させた子どものような無邪気な笑みを向ける。おれは諦めて口の中のチョコをしっかりと味わって食べた。……美味しかった。

「何個か入ってるやつなら一個くれー千星が食ってもいいんじゃね?」
「……そうかな」
「そういうこと」

 結局、おれは武の押しに負けてしまった。気持ちを込めて作られたチョコを、二人で味わいながら平らげる。
 意地なんてものは、チョコと一緒に溶けてなくなった。



20090112

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