マリンスノーに祝福を | ナノ


▼ ♯メランコリー

 今日、リボーンさんがオレに直接指導をすると言ってくれた。それはすげぇ貴重なことだ。十代目の部屋にお邪魔して、彼も毎日受けているだろう教育にオレは胸を高鳴らせる。

「ボンゴレでは脳にかかっているリミッターをカットして、眠っているパワーの解放に着目しているんだぞ」

 さすが十代目。毎日こんなに高度な授業を受けているとは。

「特別講師を呼んどいた」
「ちわー! 楽々軒でーす!」

 突然大人イーピンがラーメンを持って現れる。オレの目の前に置いた瞬間、いつものガキの姿に戻った。
 リボーンさんはオレにイーピンの餃子拳を喰らいながら、ラーメンを完食しろと言う。餃子拳は相手の脳に作用して、体を勝手に動かす拳法らしい。オレはもちろんその試練を受けた。
 しかし途中でアホ牛の邪魔が入り、混乱したイーピンが餃子拳を連射。そして──

「ぎゃあああぁっ!」
「十代目!?」

 オレは思いきりラーメンを十代目の頭にぶちかけてしまった。頭を冷やして戻ってきた主に土下座で謝る。それでも足りない。右腕どころかファミリー失格だ。
 突然部屋のドアが開き、オレ達はそちらに目を向ける。

「悲鳴が聞こえたから上がったぜ」
「さっきから何してるの……」

「山本ぉ! 千星くんっ! 助かったーっ!」

 現れたのは野球バカと優男だった。十代目は目を輝かせて二人の名前を呼ぶ。まるで心の底から安心したような、頼っているような眼差し。
 その光景を見ていられなくなり、静かに部屋を離れた。でも優男だけはオレの動きに気付いたようで、玄関で後ろから呼び止められる。

「ねぇ」
「……お前か」
「どうしたの?」
「ついて来んな」
「……そう」

 オレが威嚇するように呟くと、こいつはあっさりと引き下がった。こんなマフィアに無頓着な奴がファミリー候補なんて、しかも認められているなんて。
 ドロドロした熱い何かが心を上り詰めていく。積もりに積もったそれは、爆発した。

「っ、そういう態度がむかつくんだよ!」

 胸倉を掴んでスラスラと出てきた言葉を叩きつける。こいつは緑の目を見開いて驚いていた。その体を突き飛ばし、オレは走り去った。



 その後公園でタバコをふかしてると十代目のお母様が来て、十代目が毎日オレの事を話しているのを教えてくれた。どこのファミリーにも入れずに悪童だったオレを迎え入れてくれた場所。十代目は、オレを捨ててなんかなかったのだ。
 急いで愛しのボスの元に向かう。家に着き階段を走って登り、部屋のドアを開けた。

「十代目っ! ただいまっス!」
「ご、獄寺くん!?」
「さーてダイナマイトの手入れでもすっかな!」

 部屋に戻って体の至る所に隠していたダイナマイトを広げる。しかし一つ手にした瞬間に、黙ってこっちを見ていたリボーンさんが口を開いた。

「おい、千星はどーした」
「へ?」

 辺りを見回す。あの目立つ金髪がなかった。
 正直、あいつは気に食わない。音もなく現れたくせに十代目やリボーンさんに好かれて、掴み所がなくて、妙に落ち着いてて、よく笑って。オレの欲しいもんを持ってるくせに、それを手に入れようとしない。
 それなのに、本当に気に食わないのに、何故か見開かれた緑の瞳が脳裏に焼き付いて離れない。自分の口にした罵倒が蘇る。
 餃子拳の後遺症か、気付いた時には体が勝手に動出していた。



「ったく、どこにいんだよっ!」

 走っても走っても一向に派手な金髪は見当たらない。公園や商店街にもいないかった。
 走り続けると橋の上に出た。その下には川があって、芝生があって、土手があって。金髪が……あった。でも一人じゃない。駆けつければ男二人に腕を掴まれている。
 あいつは強い。認めたくねぇけど。以前やくざのアジトへ行った時、その動きは舌を巻くほど速く、まるで獲物を見つけた蜜蜂のように的確だった。
 しかし、今はその鋭さがまったく感じられない。雨に濡れて震えていた、あの日のようだ。

「………てめーら何してんだ」

 オレは一つだけ持っていたダイナマイトを威嚇代わりに爆発させる。すると奴らはしっぽを巻いて逃げ出した。情けない野郎だ。あいつらが消えたので、金髪の近くに歩み寄る。

「……──」

 今のこいつは、本当に女のようだった。醸し出される弱々しい雰囲気が、そう感じさせる。オレが突き飛ばした時も簡単に傾いた体。華奢なそれは男のものとは思えず、絡まれたのも分かる気がした。
 大きな目に溜まった水の原因は、オレだ。でも妙なプライドが邪魔して言葉が出ない。
 だからオレはこいつの細い腕を掴んで、最低限度の謝罪を口にし、いるべき場所へと連れ帰った。



20090111

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