▼ ♯眠りの森の王子様?
あの後オレ達はなんとか無事に家に戻ることができた。
今はオレの部屋に集まり、ディーノさんが獄寺くんと山本、千星くんのことを褒めている。友達を褒められるのは嬉しいのだが、内容が内容なだけにちょっと複雑だ。
獄寺くんと山本はちゃんとディーノさんの話を聞いているけれど、千星くんは山本の隣に座って眠っている。遅くまで起きていたので(といってもまだ昼間だ)眠くなったらしい。緑色の瞳は閉じ、静かに呼吸をしている。
ディーノさんは千星くんの寝顔を見ながら口を開いた。
「リボーン、お前わざと千星をツナの方に行かせただろ」
「まあな」
「どういうこと?」
「ツナのカバンからふでばこを抜いて渡したんだ」
ディーノさんとリボーンの言葉に驚きを隠せない。それはオレのクラスメイト達も同じなようで、二人ともリボーンを凝視している。
「じゃ、じゃあ忘れ物って嘘だったの!?」
「こーでもしねぇと千星は試せねぇだろ」
「そうかもしれないけど……」
オレは千星くんが珍しく怒っていたことを思い出す。怒るといっても彼の場合は口数が極端に減って、少しリボーンにつっかかっただけだけど。
でもそれは、至極当然なことだった。あんなにマフィアに関わりたくないと言っていたのに無理やり試されりしたら、怒るのも無理はないと思う。
「しっかし千星って強ぇのな。前に獄寺にも勝ってたし」
「オレは負けてねぇよ! あいつが勝手に降参したじゃねーか!」
「ははっ、そうカリカリすんなって! 強ぇ事には変わりないだろ?」
「山本の言う通りだぞ。千星の動きには無駄が一切ないからな」
リボーンがにやりと笑う。こいつは千星くんのこと気に入ってるから、たまに二人きりになった時にも褒めていることがある。でも今日みたいな事ばっかしてると、いつか嫌われるんじゃないだろうか?
「リボーン。千星はなんでマフィアに入るの嫌がってんだ?」
「さぁな。何聞いても流されるからわかんねー。けど、」
「けど?」
「こいつは間違いなくこっち側の人間だぞ。マフィアってのは本人が否定してるけど、裏の人間には変わりねぇ」
その言葉に獄寺くんは驚き、山本はわけがわからないといった表情を見せる。オレもすごく驚いたけど妙に納得してしまう所があった。うまく説明はできないけど、雰囲気がちょっと他の人と違う気がするんだ。
そして彼は、リボーンやディーノさんとは違う何かを持っている気がする。今まで見てきたマフィアの人達とも違う、何かを。
「んっ……」
話題の本人は少し身じろぎをし、隣にいる山本の肩へと頭を乗せてまた眠り出した。
蜂蜜色の髪が流れ、顔にかかる。まつげは長くて、閉じている瞳を開けると大きな緑色の瞳があって。
寝顔もきれいで本当に女の子みたいに見えた。この中性的な顔のせいで色々と苦労することもあったのだろう。見た目が派手だからよく絡まれると聞いたことがあるけど、きっと違う意味で絡まれる事も少なくないはずだ。
「こいつ眠ってると更に女みてーっスよね」
「………」
「十代目?」
「あ、ごめん。何?」
「いえ、なんでもないっス」
「──よっと」
オレ達の会話を黙って聞いていたであろう山本は突然立ち上がり、隣で眠る千星くんを横抱きにして軽々と持ち上げた。
「え、山本!?」
「ベッドに寝かしてくる」
爽やかな笑顔でそう言うと、山本は隣の部屋へ向かっていった。
20090104
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