▼ くせ
正一の家は快適だ。居候はいないし、何より起こされる事がほとんどない。別にツナの家が嫌だとかそういう意味ではないが、ただ最近ランボさんが頻繁におれを起こしに来るようになって睡眠不足なだけだ。
なのでそれを癒やすべく、今は正一の家にお邪魔している。
「千星ペンが止まってる」
「ああ、ごめんごめん」
「考えごとしてた?」
「子どもって可愛いけど元気の塊だよなって思ってた」
「また意味不明なことを……」
呆れ顔でおれを見る正。失礼な、頭の中でちゃんと話の道筋ができていたことを知らないからそう思うんだ。いや、知ってたら逆に怖いけれど。
学習机と向かいあって勉学に勤しむ正の隣に立ち、採点する手をまた動かした。
「あ、ここ違う」
「えっ! どこ?」
「境内の読みは『けいない』じゃなくて『けいだい』」
「そ、そうなの?」
「そうそう」
正は国語が少し苦手らしい。でも理数系はずば抜けた才能を持っているし、苦手と言っても以前ツナに見せてもらった並盛の教科書より難しい問題が多いから、なんとも言えないが。
「そろそろ休憩しよっか」
「うん……。はぁー疲れた」
「はは、お疲れ」
「千星は全然疲れてるように見えない」
「頑張ってるのは正だもん」
ふてくされたように呟く正を見て、おれはクスリと笑う。そしてさっきまでペンを握っていた手で彼の頭を撫でた。少しくせのついている髪をいじると、正は急に慌てだす。
「ちょ、何やってんの!」
「ん? 髪いじり」
「僕が聞いてるのは何がどうなったらそうなるって事なんだけど」
「ああ、行為じゃなくて経緯?」
「そう!」
「んー……柔らかそうだったから、つい」
へらりと笑ってみせる。正は盛大な溜め息を漏らした。なんか彼の中でおれは不思議なキャラクターになりかけている気がしてならない。もしそうだったらどうしよう。別にどうもしないが。
「おれってどうも髪の毛触る癖があるみたい」
「どんな癖だよ……」
「全くだよねー」
「それは僕のセリフ!」
会話がコント化してきた。まるでツナとリボーンみたいな状態で、テンポが良くて結構面白い。正以外じゃおれはこんなにアップテンポな会話は出来ない気がする。ツナは未だに遠慮気味だし、武とビアンキと笹川兄妹は天然だ。そしてリボーンと獄寺少年は、ああだし。
「相性いいかも」
「僕と千星が?」
「うん。一緒にいて楽しい」
「……。あっあのさ、そろそろ離してくれないかな」
「そうだったね。気持ち良かったから忘れてた」
髪に絡めていた指をゆっくりと離す。少しだけ名残惜しく感じたのは、多分気のせいじゃない。
20090101
← / →