▼ お年頃
日が落ち始める少しに前、おれと京子ちゃんは商店街を訪れた。買い物を楽しみながら中華な赤ちゃんを探すが、残念な事に今のところ見つかっていない。
「ここ寄っていい?」
「ケーキ屋? 全然いいよ」
「ここのミルフィーユすごく美味しいんだよー!」
満面の笑みで自動ドアをくぐる京子ちゃんを追い、おれも店の中に入る。
彼女は既に買うものを決めていたようで、店員に品名を告げて支払いを済ました。
「いつもはこんなに食べないよ! 月に一回だけだからっ!」
「あはは、そんなに慌てなくても大丈夫だよ」
「帰ったら一緒に食べようね」
「へ? いいの?」
「うん!」
「ありがと」
「千星くんはケーキ好き?」
「うん。大好き」
にっこりと微笑む。
すると京子ちゃんは昨日と同じく、頬を染めていった。……おれも罪なやつだ。
「あ、ツナくん?」
店員から品物を渡され、いざ帰ろうとした時に彼女は知り合いに気付いて声をかける。
おれはツナとハルちゃんが店に入ってきた時から気付いていた。でもツナが気まずそうにしていたので、あえて声をかけなかったのに。どうやらおれの気遣いは無駄なものになったようだ。
京子ちゃんとハルちゃんは初対面のはずだったが、ケーキの話で意気投合。その後リボーンが姿を現し何故かみんなでツナの家に行く流れになった。
「ねぇツナ、大丈夫? 落ち込んでるみたいだけど……」
「へ? そ、そうかな?」
効果音で言うならばズーンってだ。さっきからツナの表情が著しく暗い。
「気にするな。ツナは嫉妬してるだけだ」
「こらっ! リボーン!」
「嫉妬?」
リボーンがいつものニヒルな笑みを浮かべて話に割り込む。おれ嫉妬されるようなことしたか? ケーキ屋で鉢合わせしただけだ。
「……もしかして、京子ちゃん?」
「え、」
「てっきりハルちゃんと仲良いからそっちだと思ってたけど……」
「ちょ、千星くんっ!」
ツナは耳まで真っ赤にしている。初々しい反応にニヤニヤが止まらない。
「大丈夫。あれは別にデートじゃないし、何よりおれはツナの味方だから」
「違っ、だからそんなんじゃないって!」
頭を撫でれば大声を上げる。ほんと元気がいいな。
ツナをからかっていると突然ランボさんが走って部屋に入ってきた。そして、その後ろからは。
「あ!」
思わず大声を上げる。今まで探していた中華な赤ちゃんの姿がそこにあった。
「あの時はありがとう。どうしてもお礼がしたくて」
おれはキッと睨む赤ちゃんの手に、小さな花のついたブレスレットを乗せる。初めはキョトンとしていたが、あげると言うと目をキラキラさせ、手首につけてくれた。ゴムになっているそれはすぐにはまり、その子はおれに向けてぺこりとお辞儀をした。
その後、ハルちゃんと京子ちゃんのケーキをみんなで分けて食べた。
「ρθνλκ!」
「『ケーキのお礼に秘伝の餃子饅を差し上げたい』と言ってるぞ」
通訳をするのはもちろんリボーンだ。そしてこの子が話せなかった事を知り、納得する。さすがに女の子という所までは見抜けなかったが。
二人は中華少女から餃子饅をもらうとすぐに嬉しそうにかぶりついた。しかし二人は突然気を失い、その場に倒れこむ。
「ハル! 京子ちゃんっ!」
「……リボーン説明して」
「これは一種のポイズンクッキングね」
おれの問い掛けに答えたのはリボーンではなく、部屋に乱入してきたビアンキの説明だった。そして彼女は二人の命が危ないと告げる。
中華少女からもらった解毒剤は一つ。つまり、どちらかしか救えない。
「……どっちが死んでも困るに決まってんだろっ!」
「悪くない答えだぞ」
リボーンはツナの答えを聞き、銃を二丁同時に構えて倒れる二人の額に的確に当てた。おれには理解できない。そんなことしたら死ぬだろう。
しかし驚くべき事に、二人は生き返ったのだ。下着姿で。
「「行かなきゃ」」
声をハモらせ走り出す二人。ツナは二人のあられもない姿に鼻血を吹き出す。彼女達と同性のおれは近くにあったベッドの毛布をひっぱり、急いでその体にかけた。
二人は今日来たケーキ屋に向かい、おれ達も後からついて行く。そして何故か店内のガラスケースを破り、ケーキを両手にもぐもぐと口に運んでいた。
「一体なんなんだ……?」
それが死ぬ気弾というものだという事と、普段ならツナが浴びせられているという事を小さな殺し屋から聞いたのは、この衝撃的な出来事の後だった。
20090101
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