▼ lazward
濃いオレンジ色の空はどこまでも続き、その中に浮かんでいる雲を綺麗に引き立てている。雲の隙間からは光が漏れ、幻想的な雰囲気を醸し出していた。秋は夕暮れ。まさしくその通りだと思う。
キャリーケースを引き車通りの少ない細い道を歩く。目的地は笹川家。
「……?」
順調に歩いていたはずが、突然ズボンの裾がひっぱられた感覚がして、視線を自身の足元へと下げる。そこには中華な感じの赤ちゃんがいた。赤ちゃんといってもランボさんと同じくらいの年齢だったが。
その子は小さな手のひらをこちらに向けて差し出している。不思議に思い、そこにちょこんと乗っているものを見ると────
「あ!」
思わず大声を上げてしまった。そこにあったのは、キャリーケースに付いている筈のラピスラズリ。
慌ててケースの持ち手の部分に目をやる。するとチェーンはしっかりとくくり付けられているが、肝心のトップの部分が取れてなくなっていた。
「拾ってくれたの……?」
しゃがんで同じ目線にしてから問い掛けると、その子はこくりと首を縦に降る。
小さな手のひらから涙型のそれを受け取った。落ちた時の外傷もないようで、群青色の中で星のように散らばる金色の斑点もそのままだ。
「ありがとう……」
両手でラピスラズリをぎゅっと握りしめ、心からのお礼を伝える。この師匠から貰った誕生日プレゼントはとても大切なものだ。『千星』になるきっかけを作ってくれたものでもある。
なくしたり傷付くのが嫌だったからあえて身に付ける事はしなかったのに、落としてしまったりしたら元も子もない。
「あ、何かお礼──」
と言いかけたが、その子は一睨みしてサッと走っていってしまった。
「したかったんだけどなぁ」
小さな赤い後ろ姿を眺めながら呟いた言葉は、夕焼け空へと消えていった。
20081230
← / →