▼ リバースデイ
名前を捨てるのは思ったよりも簡単なことだった。覚悟を決めていたせいもあってか、胸もあまり痛まない。
けれど何故だろう。これだけは胸が痛くなるんだ。毎年、どうしても。
「ただいま」
「どこ行ってたんだ」
「プレゼント探し」
起きた時には既に家の中が騒がしく、ビアンキに理由を聞けば今日はリボーンの誕生日だからだと返ってきた。
しかも彼らの属するマフィアでは奇数の誕生日の時、なんとかパーティー(聞き取れなかった)というものを開催するらしい。出し物やプレゼントで点数を競い、一番低い人は殺されるのだとか。本当に物騒極まりない。
おれはそっち方面は全く関わりたくないんだけど、リボーンには一応世話になってるからプレゼントを急いで買いに行った。
「で、なんで獄寺は倒れてるの?」
「それは……」
ツナはちらりとビアンキを見る。そういえば獄寺少年はビアンキを見る度に腹痛を起こして倒れると以前に聞いた。何があったのかなんて、もちろん知らない。
「千星もこっち来て食えよ」
「ありがと」
おれは武の隣に入れてもらい、テーブルの上に置かれる寿司をいただく。うん、パーフェクト。
前を見ると大きな黒板のようなものがあり、武の顔のマグネットが八十点の横に貼られていた。
「ハルはリボーンちゃんにスーツを作ってきました」
「サンキューハル! こーいうスリリングな服は好きだぞ」
世にも恐ろしい白のターゲット柄のスーツはリボーンに高評価だったようで、ハルちゃんは八十五点を獲得した。
次のビアンキは新技のピザ生地投げを披露。ポイズンクッキングで家具が所々切れたが、これまた高評価で九十点獲得。
ランボさんはランボの棒? を披露し、一点。
「次は千星だぞ」
「わかった。リボーンちょっとこっち来て」
「……?」
「そうそう」
リボーンがおれの元にとことこと近付いてくる。彼が目の前に来たのを確認して、おれはジャケットのポケットから小さな袋を取り出した。
袋からプレゼントを出し、しゃがんでリボーンの首に両腕を回す。
「………はい。おれからのプレゼント」
リボーンから離れてにこりと笑う。彼の首元には黄色のおしゃぶりとは別に、丸い黒色の石のネックレスが飾られた。
「何だこれは」
「ブラックトルマリン。十月の誕生石だよ。これなら小さいし邪魔にならないだろ」
「ああ」
「邪気払いの効果もあるからお守り代わりに。ハッピーバースデイ、リボーン」
「サンキュー千星。八十点だ」
「え、おれにも点数つけるの?」
「当たり前だろ」
目を丸くするおれに、リボーンはニヤリと笑った。絶対マフィアになんか入らないぞ。
「あとツナも」
「へ?」
おれはツナの腕を強く引く。するとツナは顔を赤く染めて驚いた。そんな様子を横目に、おれはリボーンと同じ袋を取り出す。ツナの首にも両腕を回してネックレスを付けた。
「ちょっと早いけど、ハッピーバースデイ」
「え……」
「ツナ明日誕生日でしょ」
「そ、そうだけど……なんで知ってるの?」
「あのなぁ、生徒手帳はちゃんと予備じゃない方の制服に入れとけよ」
おれが困ったように笑えば心当たりがあったようで、ツナは小さな声を上げた。全く、おっちょこちょいなんだから。
「ちなみにツナのもトルマリン。色は違うけどね」
「キレイ……」
「グリーンは邪気払いと、癒し効果があるんだって」
「あっありがとう、千星くん!」
はにかむように笑うツナ。やっぱり小動物みたいで可愛い。
「あ、千星くんの誕生日っていつなの? お返しするよ!」
「ハルも聞きたいです! 何日ですか?」
二人がそう言い出すと、リボーンや武、ビアンキまでもがこちらに視線を投げかける。
「おれの誕生日は……──」
口から紡ぎ出した日付は、おれの『リバースデイ』
20081230
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