▼ くるくると
銃声が聞こえた。しばらく寝ぼけていたおれだが、脳が覚醒し始めるとベッドから飛び起きる。そして音の発生地であるツナの部屋へと急いだ。
「ツナっ?」
「どどっどうしよー!」
「喜べ千星。ツナはようやくマフィアっぽくなってきたぞ」
「見直したわ。これで一人前ね」
部屋につくと、パジャマ姿のまま涙を流して挙動不審なツナがいた。それとは真逆にリボーンとビアンキは、これが当たり前というような素振りを見せる。
ツナの視線を辿っていく。彼ののベッドには、ニット帽を被った男性の死体が横たわっていた。まるで日常の一コマのように存在するそれ。
「ツナは怪我してない?」
「う、うん」
「なら良かった」
おれが呟けば良くないよと肩を落とすツナ。そこに何故か屋形船姿のハルちゃんと、私服姿の獄寺少年と武がやって来た。そこで今日は日曜日だという事に気付く。
「安心しろ。医者を呼んどいた」
「リボーン?」
「い……医者ってまさか」
「ああ、Dr.シャマルだ」
そう言いながら酔っ払いを引っ張ってきたリボーン。その体にあの力とは正しくチート級だ。
酔っ払い、じゃなくてシャマルさんは、男性の診察をするのかと思いきや、そこは流石のシャマルさん。真っ先にハルちゃんに向かっていった。
「んーどれどれ」
「キャアアアァ!」
シャマルさん、じゃなくて酔っ払いは、ハルちゃんの胸に両手をくっつける。その直後悲鳴と共に浴びせられたストレートが華麗にヒット。しかもクリティカルだ。戦いの終わりを告げるベルが力強く鳴る。ちゃんとおれの脳内で。
闘いが終了した合図と共に、一つの疑問が浮かんだ。どうしてシャマルさんはあの時おれのことを女だってわかったのだろうかと。……触られてなければいいけど。
「てか本当にそいつ生きてんのか? 瞳孔開いて息止まって心臓止まってりゃ死んだぜ」
各々でチェックをする。全て当てはまった。
「仏さんにゃ用がねーや。じゃ!」
「あー! もうだめだーっ!」
「こんな時のためにもう一人呼んどいたぞ」
リボーンの言葉に続き、遠くから聞こえるエンジン音。それは徐々に近付いてきて家の前でピタリと止まった。嫌な予感がする。
「やあ」
その予感は見事に当たり、部屋には黒い秩序が光臨した。以前不本意な手合わせをして以来の彼は相変わらずな様子で、部屋の窓から悠々と侵入する。
ちなみに体育祭の愚痴の中にも彼の名前が含まれていて、なんとB・C組合同の総大将が彼だったらしい。
「待ってたぞヒバリ」
「やるじゃないか、心臓を一発だ。………うん、この死体は僕が処理してもいいよ」
「何言ってんのーっ!?」
「じゃああとで風紀委員の人間よこすから。……と、そこの君」
どうやらおれに用事らしい。ツナの突っ込みを華麗にスルーした風紀委員は、スタスタと傍まで歩いてきた。おれの方が背が低いので、当然見上げる形になる。
「なにか用?」
「あの日の続きをしようと思って」
「ちょ、ヒバリ!?」
それを聞いた武が焦り出す。そんな事はお構いなしにおれの腕を掴んだ風紀委員は、そのまま窓へと引っ張っていき窓からひょいと地上へ降りた。
怪我が完治していないおれに、二階からのダイブは辛かった。
「いっ……!」
左足を上手く使って着地の衝撃を和らげたが、漏れた力が右足に加わって痛みが走る。嫌な汗が噴き出した。
「場所変えるよ。後ろに乗って」
「っ、ねぇ、待って」
「早くしないと咬み殺すよ」
「おれ戦える状態じゃないんだけど……」
「は?」
「片足をちょっとね」
そこまで言うとようやく状況を飲み込んだらしい彼は、純黒の瞳をおれの下半身へと持っていく。
「……いつ治るの」
「痺れが取れれば平気だから、あと数日くらい」
「ふーん」
そう言うと風紀委員はバイクに跨り、辺りに爆音を撒き散らす。
「次は見逃さないよ」
「了解」
不満そうに呟いて、滑るように去っていった。
部屋に戻るとさっきの死体が生き返っていた。もとい、初めから死んでいなかった。彼はツナがボスになる予定のボンゴレファミリーという所の人で、わざわざイタリアからツナに仮死状態になる新技を見てもらいたくてやって来たらしい。
なんというか、めまぐるしい一日だった。
20081228
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