▼ 体育祭は睡眠中につき、
今日は見事な晴天だった。透き通る青い空には白い雲がぽっかりと浮かび、見ているだけで爽やかな気分になる。どうやら並盛中の体育祭は天候に恵まれたようだ。
そして目の前の少年、沢田綱吉は歓喜の表情を浮かべていた。この日だけを楽しみにして、夜も眠れぬ想いだった……という気持ちとは真逆の心境だったであろう彼は、体温計を見つめて喜びの声を上げる。
「何度だった?」
「三十七度五分! カゼひいてるっ!」
「良かったじゃん」
病人にかける言葉としてはどうかと思うけど、状況が状況だけに間違ってはない。何故ならツナは運動が苦手で、しかもそれは自他共認めるものらしく、そんな彼が体育祭を楽しみにしているはずなんてない。
しかも並盛中には棒倒しという競技があり、A組ではツナが大将に抜擢されたらしい。理由は了平が大将を降りて、ツナを名指しで指名したからと聞いている。
「昨日川に落ちたおかげだ!」
「ほんと大変だったな」
「そう言ってくれるのは千星くんだけだよ……!」
目を輝かせている小動物、のように見えるツナ。どれだけ嫌がっていたかは昨日聞かされた愚痴でよく分かっている。しかも棒登りの特訓で川に落ちたら、尚更嫌にもなるだろう。
でもどうして了平はツナを大将に選んだのだろうか。謎だ。
「とりあえず学校には行くの?」
「うん。保健室で休んでる」
「ふうん」
「千星くんは体育祭見に来ないの? 山本とか獄寺くんもいるのに」
「うん。足の調子もいまいちだから今日は留守番」
「そっか」
「それに眠いし」
「おーい」
「あはは、とりあえず行ってらっしゃい」
「うん。行ってくる」
彼はパジャマから制服に着替えなければいけないので、おれはツナの部屋から出て行く。
ドアを開けると一階からは奈々さんとビアンキ、ハルちゃんの可愛らしく弾んだ声がした。ちなみにビアンキとハルちゃんには最近会ったばかりだ。少ししか会話していないけれど、二人とも個性豊かってことだけはよく分かった。
三人はどうやらリビングでお弁当を作っているらしい。みんなでツナの応援に行くようだ。
「……ツナ本当に休めるのかな」
なんか百パーセントに近い確率で無理な気がしてきた。そうなったら帰ってきた時に愚痴でも聞いてあげようか。
それから数時間後、体中が掠り傷だらになった彼の愚痴を聞くおれがいた。
20081228
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