マリンスノーに祝福を | ナノ


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※ツナ、夢主を呼び捨て。


「もしも世界と大切な人のどっちかしか救えないなら?」

 巨大マフィアの若きボスから投げかけられた、突拍子のない質問を復唱する。
 高級感溢れる革製の一人用ソファに座るツナの姿は、どこかの大手会社の社長のようだ。実際には社長なんかよりも権力があって、彼の一言で多くの血が流れる。
 でもツナはそんなことをしない。たった一人の人間の命を、世界と平等に扱う子だ。
 しかしその優しさのせいで今、頭を悩ませているらしい。

「千星ならどうするのか聞きたくて」
「なに、リボーンか骸にまた何か言われたの?」
「うん。まあ……」
「マフィアのボスも大変だね」

 他人事のようにあっさり言ってのけると、ツナは困ったように笑った。

「自分が犠牲になるとか、死ぬ気でどっちも救うってのは無しだよね」
「よくわかったね」
「あの二人の考えくらいわかるよ」
「あはは……さすが」
「それで、質問の答えだけど」

 話の軸を戻す。ツナの真っ直ぐな視線が突き刺さった。
 若きボスを見据えながら、おれは自分の考えを紡ぎ出す。

「迷わず世界を選ぶ」
「……理由は?」
「もしも自分が大切な人の立場だったら、自分のせいで世界が消えるのが哀しいから、かな」
「そっか……」
「そして選ばれなかったその人が何かの手に掛かる前に、自分の手で殺めるよ」

 ツナは目を見開いた。
 おれは言葉を続ける。

「それは自分への罰だよ。だって自分勝手なエゴで、大切な人の命を選んであげられなかったんだから」
「……」
「でもきちんと大切な人の全てを背負う。どう足掻いても消えない、いつまでも熱を持ち続ける傷を心に作って償うよ」
「千星は、相変わらずだね」
「え」
「自己犠牲強すぎ」
「ふふ、そうかな」
「そうだよ。あと考え方がぶっ飛んでる。相手の気持ちを考えているようで全く考えてない。十年経っても変わらないってどういうこと?」

 ツナが眉間に皺を寄せて不機嫌さを露にする。おれの答えをあまり良く思わなかったらしい。

「そんなに怒らないでよ」
「もっと考えて」
「何を……?」
「もしもオレが世界と千星のどっちかを選べって言われて、仮にも世界を選んで千星を殺して、一生その傷に振り回されながら生きてもいいの?」
「それは──」
「オレは、大切な人には苦しみながら生きてほしくない」

 ツナがあまりに真っ直ぐ見つめてくるから、次に続けようとした言葉を無くしてしまった。
 彼はきっとわかってないだろうけど、真剣な眼差しで言葉を紡ぎ出すその姿は本当にマフィアのボスらしい。
 十年前は頼りなかったんだけどな。そう思うと、なんだかあの頃が懐かしくなった。

「成長したなぁ」
「え、なに?」
「なんでもない。ちなみに、ツナはどうするの? 世界と大切な人を選ぶとしたら」
「それは……」
「まさか自分の意見がまとまらないまま他人の意見を非難したの?」
「うっ」
「別に怒ってないよ。ツナはじっくり考えて答えを出すタイプでしょ。周りの意見に耳を傾けて、ゆっくり決めればいいから」
「……うん」

 しょんぼりと顔をうつ向かせる彼を見ながら、おれは言葉を続ける。

「悩みながらも辿り着いた結果は強いよ。どんなものにも負けない強さがある。それを導き出せるのが、ツナの長所だよ」
「な、なんか恥ずかしいんだけど」
「そう?」
「うん。……でもおかげで少し気持ちが楽になったよ」
「それは何より」

 ツナの晴れやかになった表情を見て、こちらも自然と笑みがこぼれる。
 ツナが何をどう選ぶにしても、ちゃんと陰で応援してあげるから。
 だから頑張ってね、優しいマフィアのボス。



20090705

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