▼ マシュマロ!
目の前には袋が三つ。
その全てにマシュマロが入っていた。紅茶味といちご味、あと白蘭がよく食べている普通のマシュマロ。その三つがおれの目の前にドンと置いてある。
「……まさか、全部開けるわけじゃないよね」
「開けるよー。そのために買ったんだもん」
「大丈夫?」
「ばっちり」
白蘭はいつものへらりとした笑顔を返してきた。
やっぱり食べるのか……。うすうすそんな気はしたんだけど、本当に大丈夫だろうか?
おれが心配してるのは白蘭の胃袋じゃなく、彼の思考回路だったりする。
「でもさーちぃチャン。これだけでホントに美味くなんのかなぁ?」
「なるよ」
おれはスパナから借りたガスバーナーをセットする。青い炎じゃなんだか危険な感じがしたので、調整をしてオレンジの炎を出現させた。
「どれからやる?」
「んー、いちごのやつ」
「了解。……はい、端っこ持って」
いちご味のマシュマロを棒に刺して白蘭に渡す。それをガスバーナーであぶるよう指示をすると白蘭は言う通りに行動した。
普段は命令する立場のやつを動かすのは、なんか新鮮だ。
「先の方が茶色くなりはじめたら食べてもいいよ」
「そろそろ?」
「ん」
短い返事をすると白蘭はあぶるのを止め、棒にささった状態のままパクリと口に入れる。
一瞬目を見開いたが、すぐに幸せそうな表情でもぐもぐした。
「どう?」
「おいしい……でもなんで?」
「何故か知らないけど、中がとろけて美味しくなるんだよなぁ。気に入った?」
「うん。ちぃチャン天才!」
「あはは、天才はこれを初めて考え出した人であって、おれじゃないけどね」
ルンルンという効果音がつきそうな程ご機嫌な白蘭。それを横目に、おれは紅茶味のマシュマロを棒の先につけてあぶり出す。
「おれも食べていい?」
「いいけど、それで食うと間接キスになるよ」
「別に気にしてないからいいけど……。白蘭が嫌ならやめる」
「オレは全然良いよ。むしろやって」
「やってってお前なぁ」
困ったように笑ってみせればそれがお気に召したらしく、満面の笑みを向けてきた。何故だろう、今日のこいつはかなりご機嫌だ。十中八九マシュマロのせいだと思うけど。
「んっ」
「どう?」
「なんかミルクティーみたい。これは好き嫌いありそうだなぁ」
「へぇ。じゃあ次はこれやっていい?」
「どうぞ」
白蘭はいつも食べている普通の白いマシュマロを取り出す。今度は自分で棒に刺し、それを火の近くにあてた。
「ねぇ」
「ん?」
「正チャンにもこれ教えた?」
「そういえば正には教えてないな」
「へぇ」
「なにその嬉しそうな顔は」
「んー、別に?」
「変な白蘭」
「ひどいなぁ」
少し焦げ目のついたそれを、彼はパクリと一口で食べた。そんな幸せそうな顔して。見ているこっちにも幸せが伝染しそうだ。
「おいしー」
「良かったね」
「ちぃチャンも火であぶったら美味しくなんのかな?」
「そんなブラックジョークはやめてよ」
「だって食ったらオレのもんになるでしょ」
白蘭はそう言って、おれの目元に唇を落とす。
「……白蘭。おれは、」
「分かってるよ。それでもこっちに引きずり込みたいの。……とまあこの話はまた後でにして、マシマロ食おっか」
そしてマシュマロパーティーが再度開催される。
お決まりのあーんをしたりされたりしていると、途中部屋に入ってきたレオナルド・リッピが驚いた表情をした。
白蘭はよほどあぶったマシュマロが気に入ったようで、仕事よりもこっちを優先させる。まるでそこにいる彼に見せつけるかのように、おれに口を開けることを何度も要求をしてきた。
うーん、変な白蘭。
20090517
← / →