▼ 弱点こうげき?
「なぁリズ。お前アップルグミ持ってるか?」
スパーダに呼び止められたリズはくるりと後ろを振り向く。
しかし何かが頬に当たった感触がして、すぐに「しまった」と顔を強張らせた。
「ヒャヒャヒャ! また引っ掛かってやんの」
スパーダは楽しげに言う。その笑顔は今のリズにとって、とても憎たらしいものだ。
彼の手はリズの肩に置かれており、ピンと伸びた人差し指は少女特有の柔らかな頬を突いている。
「5回目だぜーリズさんよぉ! ちと警戒心足りないんじゃねえの?」
彼の言葉通り、引っ掛かるのは本日5回目だった。
何故か古典的なイタズラを仕掛けてくるスパーダは、怪しむリズの警戒をそらせる為にあの手この手で声をかける。
たかがイタズラ、されどイタズラ。ここまでやられてはリズも穏やかな気分でいられない。
「……、!」
何か良い方法はないか。そう考え込んだリズは、何か思いついたようにポンと手をたたく。
いじわるなお貴族様に仕返しをする方法を思い立った。
「リズ! 向こうでアンジュが呼んでるぜ」
スパーダはにやける表情を隠してターゲットに話しかける。まるで無垢な赤ずきんを騙す狼のような気分だ。
リズは歩みを止めて振り向いた。むに、と頬にスパーダの指が当たる。
「うひゃひゃ! 6回目ー」
けらけらと笑うスパーダ。よく飽きないなぁと思いながらも、リズは気持ちを顔に出さないように耐える。
そして顔をうつむき両手で覆った。
「……ん?」
スパーダは笑い声を止めて、目の前の少女を不思議そうに見つめる。
「リズ?」
「……」
「リズさーん」
「……っ」
「お、おい」
顔を隠して肩を震わせるその姿にスパーダは焦り始めた。
行き場の無くした手がリズの前で情けなくさまよう。
「どうしたんだよ、いきなり」
「……」
「さっきまで平気だったじゃねーか」
「……」
「べ、別に泣くほどでもねーだろ? な?」
必死に声をかけるスパーダの様子を、リズは指の間からチラリと覗き見る。
どうやら泣き真似作戦は成功らしい。
イタズラを止める手段を模索していた彼女は、手軽に且つ反省させるような仕返しを考えついた。それがこの泣き真似である。
現にスパーダはあたふたと困っており、見事思惑通りとなった。
「あ! 腹減ってねェか?」
何を思ったのか、不良少年は空腹具合を確認し始めた。
お腹がすいて泣くのは赤ちゃんくらいだろうと冷静に思う。
「何か欲しいモンはあるか? お兄さんが買ってあげよう」
怪しいおじさんのような誘い文句に変化した。ちなみに彼は同い年です。
「あー、今日はいい天気デスね」
そうですね。そう口から出かけた言葉を飲みこむ。
声は出ないだろうとか、スパーダが若干ハスタ化しているとかは気にしてはいけない。
「……」
何を言っても反応を見せないリズに、散々悩んだスパーダはグシャグシャと帽子の上から頭を掻き始める。
そして、
「……悪かった」
とうとう謝った。
これにはリズも大満足だ。どのくらい満足したかと言うと、嬉しさと達成感のあまりにうっかり両手を顔から離すくらい。
「あっ! テメェ!」
「!」
スパーダと目が合ってびっくりするリズ。時が止まった気がした。
我に返った彼女は冷や汗を流し立ち去ろうとするが、あと一歩のところで肩を掴まれてしまう。
「へぇ、泣き真似たぁーいい度胸じゃねェか」
ねっとりした声にリズは表情を引きつらせる。
「こりゃアレだな。たぁーっぷりお仕置きしねーとなぁ?」
スパーダは笑った。それはもう悪人顔負けの笑みで。
嫌な予感にリズは首を思いっきり横に振った。
しかしそんなのお構い無しというように、ある意味上機嫌なスパーダはリズに手を伸ばし始める。
「んな怖がんなって。泣き真似なんてする悪女なリズには、アレだ。フルコースな」
その後、笑みの浮かべるスパーダと、本物の涙を浮かべるリズの姿が発見された。
2012.04.13
『スパーダにいじられ仕返しする甘ギャグ』というリクエストを頂きました。
甘い、か……? 糖分不足で申し訳ないです。そして仕返しをしたものの、立場が逆転してしまうという不思議な結果に!
最後に何が行われたかは、匿名さまの想像にお任せします(笑)
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