企画部屋 | ナノ


▼ ××争奪戦!



 斜陽が途絶え、日が完全に落ちた野外にテントを張る旅の一行。
 もう慣れてしまった野宿に文句を言う者は誰もいない。それよりも今は空腹を満たすため、口を喋るためでなく、食べるために動かしていた。

「このカルボナーラ美味しいね」

 コンウェイが隣に座るリズに声をかける。
 感想を伝えたのは、今日の料理当番が他でもない彼女だったからだ。
 
「おかわりもらってもいいかな?」

 にこにこ笑顔で言う彼にリズはこくりと頷き、食事の手を一旦止めてコンウェイの皿を受け取る。

「あ、オレも!」

 元気に手を挙げるスパーダにリズはクスリと笑みをこぼし、彼の皿も回収した。
 そのまま立ち上がり、料理の入っている容器の蓋を開ける。今がチャンスだというように湯気が一気に逃げていく。

「……」

 リズは中身を凝視し、動きを止めた。不思議に思ったスパーダとコンウェイも彼女の両隣からひょこりと中を覗き込む。

「一人分、だね」
「だな」

 リズの気持ちを代弁するように二人が呟く。
 言葉通り、おかわりのカルボナーラは一人分しか残っていなかったのだ。
 コンウェイは顎に手を当て、真剣な表情で考え込む。

「……スパーダくん」
「あ?」
「スパーダくんは昨日もおかわりしてたよね」

 何を言い出すのかと思いきや、コンウェイは昨日の夕飯の様子を思い返していたらしい。

「だから今日はボクに譲ってくれないかな」
「はぁ? でも昨日はコンウェイの嫌いなハンバーガーだったろ」
「それがなにか?」
「お前の分のトマト食ってやったんだから、オレに譲れよ」

 つっかかってきたスパーダに、コンウェイはやれやれといった表情を返す。
 半分にわけて食べればいいのにと考えるリズだったが、火花を散らし始める二人にはその考えは無いらしい。

「大体キミだって苦手な揚げ物が出た時、リズさんに食べてもらってるだろ」
「でもコンウェイみたいに丸投げはしてねえよ。ちゃんと半分は自分で食ってる」
「そういえばスパーダくん。前に彼女が作ったコロッケは完食してたね」
「あれは……美味かったんだよ」

 なんだか話が軸からずれていき、リズは困ったように笑う。

「てかお前、リズが当番の時はやけにおかわりしてねえか?」
「味付けが僕の好みでね」
「オレだって好きだよ。というか、好きなのは料理だけじゃねーし」

 そう言うや否や、スパーダは隣にいるリズの肩を引き寄せた。
 突然肩を引き寄せられた少女は、わけがわからず唖然とスパーダを見つめた。
 してやったりと笑うスパーダ。そんな彼に、コンウェイは棘のある笑顔を作った。

「へぇ……。でもリズさん困ってるようだから、離してあげたらどうかな」
「やなこった!」
「そんなに自己中心的な考え方だといつか見放されるよ。リズさんもそう思うでしょ?」

 今度はコンウェイがリズの両手をとる。
 アメジストの瞳に自分の姿が映し出され、これまた突然の出来事にリズの肩がぴくりと跳ねた。

「おいコンウェイ!」
「別にこれくらい良いだろう?」
「今すぐ止めろ! リズに腹黒がうつったらどうするんだよ!」
「随分な言い様だねぇ。お坊っちゃまは剣術ばかりで口の利き方は習わなかったのかい?」

 コンウェイの背後に黒い何かが見えるのは気のせいではないだろう。
 禁句ワードを言われたスパーダは眉をぴくりと動かした。

「上等じゃねーか」
「ふふ」

 スパーダとコンウェイは立ち上がり武器に手をかける。リズは慌てて二人の服を掴んで止めた。

「大丈夫だって。ちょっくら手合わせするだけだ」
「そうだよ。これはただの手合わせ。そして勝った方があなたと料理を得られる」

 あなた『と』じゃなくてあなた『の』です。
 そうつっこみたいリズだが、穏やかな言葉の裏にある強い信念を感じ取り、手を引く。もう何を言っても無駄だろうと悟ったのだ。
 それと同時に二人は食事スペースから離れていった。

「コンウェイ! テメェには絶対渡さねえ!」
「その言葉、そっくり君に返すよ」

 リズをそっちのけで激しいバトルを展開していく二人。
 彼女は空を見上げ、今日も平和だなぁと現実逃避を始めた。



2012.04.04

『コンウェイとスパーダが子供レベルの喧嘩で夢主を取り合う』というリクエストを頂きました。
オチはどちらでも良いとのことでしたが、結局私も決められず……。
なので勝者は満面の笑みのスパーダなり、余裕の微笑みのコンウェイなり、ヤヅキさまのお好みのオチを想像して下さいませ。

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