アクマイザー

掴みなおす手1


サガは決まりごとや約束ごとに厳しい。嘘も嫌う。
だけど、誰かに嘘を付かれたとき、約束を破られた時、それほど怒りはしないように見える。何故ならサガも嘘をついているからだ。万人に対して己の中の闇を隠し、オレという弟の存在を隠している。だから自分には他人を怒る資格が無いと思っている。
けれども許しているわけではない。相手の不実の理由がいい加減なものであった場合、サガはそっとその相手と自分の間に線を引く。静かな笑顔を湛えたまま黙って離れていく。サガとて普通の人間で、そのあたりは皆とそう変わらない。ただあまりに静かに笑っているから、それに気づかれにくいだけだ。

だから、サガが強く怒ることが出来るのは、自分が嘘をついていない相手だ。つまり、嘘の対象である弟のオレ。オレが何か不実なことをやらかすとサガは大層怒るが、それはサガとオレが近しいからだ。
人を殺めたとき、盗みを働いた時、聖域を抜け出しては夜遊びを繰り返した時、サガはオレを物凄く怒った。だがそれはオレを安心させた。サガがそんな風に怒るのは、オレに対してだけ。
そう思っていた。

ある朝、サガがオレに「おはよう」と言った。穏やかに笑って朝食の用意が出来たと伝えてきた。
その日もオレは朝帰りで、酒臭かったと思う。それも、前の晩にサガと出かける約束をしていたのを、すっかり放置して連絡もいれなかった上でだ。別にいつもの事だし、断りを入れるのも面倒だったのだ。
盛大に怒鳴られるのを聞き流せば済むと思っていたのも確かで、そういう意味ではオレはサガをなめていたし、甘えてもいた。
でも、その朝のサガは怒らなかった。

(ヤバイ)

瞬時にオレは悟った。サガの中でオレとの間に一線が引かれたのが判った。そんな事はありえないと思っていたのに、サガがオレとの間に距離をつくった。その事自体が信じられなかったが、そんな風に思うこと自体、オレはサガを身近に思いすぎていたのだろう。
オレは初めて本気でサガに謝った。それはもう泣きつく勢いで。今思い出しても笑ってしまうくらい必死に。
それ以来、オレはサガとの約束だけは破らないことにしている。

オレはサガが怖い。正確にはサガの中で他人にされることが怖い。
サガの心の中にはオレしか人間が存在していないのに、全て消去して独りになったサガは、多分他人と世界に対して歯止めが利かなくなるだろう。それが怖い。
オレは自分が独りになることよりも、サガが独りになることが怖いのだ。


(2008/12/7)

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