アクマイザー

固ゆでたまご


アスプロスは朝食に出された卵を1つ手に取り、しげしげと眺めた。
小宇宙で物質を測れる聖闘士ならば、殻を剥くまでもなくゆで卵だと判る。それも固ゆで卵だ。
(デフテロスはゆで卵が好きだったのだろうか。以前はそうでもなかったように記憶しているのだが…)
カノン島でデフテロスと暮らすようになってから、卵料理といえばゆで卵なのだ。他の料理法を見たことがない。アスプロスもゆで卵を嫌いなわけではないが、こう毎回だと飽きる前に不思議に思う。デフテロスはあれでマメであり、不精ゆえの手抜き料理とも思えない。
じっと卵を見ていると、スープ鍋を運んできたデフテロスが兄に声をかけた。
「卵がどうかしたのか」
「いや、その…たまには半熟卵が食べたいかなと…」
思ったままに希望を述べると、デフテロスは困った顔になった。
「いつも村で卵を調達したあとには、火山内の近道を抜けてくるのだが、溶岩の中を通ると小宇宙で保護していても卵が固くなってしまってな…」
「ああ、それでゆで卵になっているのか」
「だがアスプロスが半熟卵を望むのなら、明日から溶岩地帯は3分以内で走りぬける」
「!!」
「もしそれでも固ゆでになってしまうようだったら、火山を吹き飛ばしてでも絶対に兄さんのもとへ半熟で届けてみせるから」
その目に本気を見たアスプロスは、慌てて弟を宥めた。
「い、いや、そこまで半熟に拘っているわけではない。ただデフテロスよ、卵に限らず茹だりそうな食材を持つときには、溶岩の中を通らずとも、次元移動を使えば良いのではないだろうか」
「!!!」
今度はデフテロスが驚いたような顔でアスプロスを見る。
「こんな近距離に次元移動を使うという発想はなかった」
「…いや、普通の発想だと思うが…」
「さすが兄さんは思考回路が柔軟だな」
きらきらした目で兄を讃えだしたデフテロスを前にして、アスプロスは自分のせいで弟が火山を吹き飛ばすことにならなくて良かったと、内心で胸をなでおろした。

(2010/1/26)


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