アクマイザー

朝の至福


デフテロスの朝は早い。毎朝遠くの泉まで水を汲みに行き、ついでに山草なども摘み、水瓶を満たした後は朝食の用意をする。
アスプロスの朝はもっと早かった。過酷な修行は日の昇る前から行われていた為だ。聖闘士となったあともアスプロスは高みを目指して鍛錬をつみ、太陽が天空へ昇りきったころ朝食をとりに戻ってくる。他の訓練生や聖闘士仲間たちと共同の食堂で食べるという方法もあったが、彼は必ず弟の元へと帰ってきた。弟の汲んだ水で手を洗い、弟の用意した朝餉で腹を満たす。それが彼らの日課だった。

戦いが終わり、二人で暮らすようになって、少しだけ変化が生まれた。
アスプロスが無茶に高みを目指そうとしなくなり、朝は弟との時間を優先するようになったのだ。とはいえ朝食を作るのは弟の役目のままで、アスプロスは寝台で寝ながらデフテロスが呼びに来るのを待っている。
以前には考えられなかったような平和な暮らしだが、アスプロスには少しだけ不満があった。
それはデフテロスの起こし方だ。
寝ている兄を起こすのが申し訳ないと思うのか、デフテロスはただじっと寝台脇で兄の目覚めを待つ。アスプロスは直ぐにその気配に気づくのだが(あの強烈な熱視線で目覚めぬはずがない)、出来れば言葉で起こしてほしいと思うのだ。
不満や疑念を内心に押し隠す愚をアスプロスも学んでいる。さっそくデフテロスに思いを伝える事にした。

「デフテロスよ」
「何だろうアスプロス」
「朝は口で起こしてくれないか」
「…いいのか?」
「それが普通だと思うのだが」
「そうか。では明日から遠慮なくそうする」
頷く弟を前にして、気持ちを隠すことなく伝え合うことの出来る幸福をアスプロスは噛み締めていた。

翌朝、アスプロスは頬に触れる弟の口付けによって、光速で飛び起きることとなった。

(2010/1/22)


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