アクマイザー

初日の出


「なるほど、なかなか良い眺めだ」
カノン島に唯一そびえ立つ火山の頂上付近からみおろした景色は、デフテロスの言ったとおり雄大で、アスプロスは目を細めた。普段はもうもうと上がる噴煙が周囲を覆ってしまうのだが、それらの塵灰は視界の邪魔にならぬよう、風向きをコントロールして後ろへ流している。
山へと登る前は闇夜にまるく輝いていた月も、既に西の端へ沈む頃である。視線の先に見える水平線は、徐々に白み始めていた。
隣に立つデフテロスが、黙ったまま遠慮がちに手を繋いできたので握り返してやる。
「聖域でひとりだけ賑やかに年明けを迎えるよりも、こうしてお前と二人で並んで日の出を見る方がずっと良いものだな」
それはアスプロスの偽りのない本心であった。
まだ聖域にいた頃は、黄金聖闘士のひとりとして年始の行事や祭事などへ積極的に参加していた。それは殆ど慈善活動や外部に対する聖域のデモンストレーション行為であったが、アスプロスにとっては教皇の座を狙うための足固め的な意味もあり、影である弟のことは後回しにしてしまう事も多かった。
東の空に光がさし始める。
早朝ではあるが活火山の噴火口近くは暖かく、小宇宙を燃やさずとも肌はそれほど冷えない。そして昇り出した太陽が、隠す事のないデフテロスの顔を照らしたのを見て、アスプロスは笑みを浮かべた。
「今年もよろしくな、デフテロス」
「アスプロス…」
デフテロスが目をきらきらさせたのはいつものことだが、どこからともなく聞こえ始めた地響きにアスプロスは眉を潜めた。次第にその響きは鳴動となって、火山全体を揺らし始めている。
地脈の流れを追ったアスプロスは、それがデフテロスと繋がっている事に気づいて慌てて弟を諌めた。
「デ、デフテロス!これを止めろ!」
「今年も兄さんと一緒に暮らせるのかと思ったら、嬉しさが止まらなくて…つい噴火させそうに…」
「新年早々、下の村を全滅させるのはよそうな、デフテロス」
とりあえず弟の小宇宙を火山への同調から引き剥がす為、アスプロスはデフテロスを抱きしめて自分の小宇宙でその身体を包んだ。

(2010/1/5)


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