当然
カノン島は基本的に火山の地熱で温かいとはいえ、双子の住む地域は草木も少なく、熱を蓄える地肌も薄く、夜ともなるとやはり冷える。
初めてデフテロスの住む小屋へ来た日、アスプロスは一応悩んだ。
(俺はどこで寝ればいいのだろう)
寝台はそこで暮らしていたデフテロス用のものしかなく、狭い小屋ゆえに2つも寝台を並べる空間などないのである。
常に1番目として生きてきたアスプロスにとって、聖域では最初に自分へ何かがあてがわれ、弟はその次という環境が当然であった。その「聖域での当たり前」を崩すことに慣れようと思い、彼はまず横になれる床を探した。質素でほとんど何も無い部屋ゆえに、空き場所だけは沢山ある。
(あのあたりに鹿の皮でも置いて寝床とするか)
そんなわけで部屋の片隅に敷物を並べていると、いつのまにか彼の横へデフテロスが立っていた。食糧確保の狩りから帰ってきたばかりの弟は、何故か成果のウサギの耳を掴んでぶら下げたまま、ショックを受けたような顔で立ちすくんでいる。
「おかえり…どうしたのだデフテロス」
弟が無言のままのとき、話す気が無いのではなく、考えた事を言葉にする習慣が身についていないだけだと今は知っているので、先にアスプロスから声をかけてやる。
デフテロスはそれでも少し躊躇して下を向いていたが、思い切ったようにアスプロスの顔を見た。
「兄さんは、俺が嫌なのか」
「は?」
「そんな片隅に…寝るところを…」
アスプロスは目をぱちりとさせた。確かに空きスペースの関係上部屋の片隅だし、デフテロスの寝台から離れているとはいえ、同じ狭い部屋内なのである。何故それが好き嫌いの話へ繋がるのかが判らない。
「しかし、他に寝る空間のある場所といったら、隣の物置の床くらいだが」
「普通、寝台が一つしかなかったら、一緒に寝るだろう」
「えっ」
「影でなくなったいま、初めて兄さんと一緒に眠れるのだと楽しみにしていたのに…」
手に持ったウサギの耳を握りつぶさんばかりにふるふるさせているので、慌てたアスプロスはとりあえず夕飯のオカズを取り上げ、それをテーブルの上に置く。
(聖域外では寝台が一つの場合、兄弟一緒に寝るのが普通であったのか…)
それは悪い事をしたと、アスプロスはデフテロスの頭をぽふりと撫でる。
そして、今晩は一緒に眠る事と夕飯の支度は自分がすることを約束して、しょんぼりしている弟の機嫌をなんとか持ち直すことに成功したのだった。
(2009/12/28)
[NEXT]