アクマイザー

二人で


互いの誤解を埋めるべく、カノン島で再び生活を共にし始めた俺たちだが、なかなか以前のようにという訳にはいかない。何せ俺は弟に散々暴言を吐いた気まずさもあるし、天魁星ごときの囁きに乗って育ててしまった闇も持っている。どうしても弟に対して及び腰になってしまう。
それに比べてデフテロスはさっぱりしたものだ。何もなかったかのように振る舞い、接してくる。2年間鍛えたという我の強さの違いなのだろうか。俺の影として暮らしていた頃の姿が嘘のように、堂々としている。
いや、俺とていつまでもウジウジとしているわけにはいかないのだ。過去を引きずるのも俺の性分に合わない。弟に習い、少しでも身に潜む闇を薄めていかねば。
そんな事を思っていると、弟が帰ってきた。手に何か布を抱えている。
「ただいま、兄さん」
そう言いながら広げて見せたそれは、綺麗な刺繍の縁取りをされた2枚の外套・ヒマティオンだった。
「それは一体?」
「兄さん用の服だ。この小屋には俺の服しかないから」
2年間、修行のために使われていたこの小屋には必要最小限のものしかなく、当然のことながら俺用の衣類などなかった。そのため弟の服を借りて生活しているが、それとて質素なもので、このように華やかな外出着など置いていない。
いま見せられたヒマティオンは、この島の者たちが身に付けるような、無地の下級庶民向けのものではなかった。ギリシアの中級以上の市民たちが着る物だ。
「随分と贅沢な服だな…それに俺は2枚も必要ないが…」
思わず弟の顔を見ると、デフテロスは肩をすくめた。
「安心しろ。それは聖域から黄金聖闘士用に貰ってきたものだ。1枚は俺用だ」
「なに」
「聖域近隣の村へ出向くときには、黄金聖闘士の顔を知るものもいるゆえ、階級に相応しい程度の身なりは整えねばならん。兄さんならそのことは良く判っているだろう」
「それはそうだが…それならば、何故2枚ともわざわざ全く同じデザイン、同じ色のものを持ってきたのだろうか」
「兄さんとお揃いにしたかったのだ」
「…そ、そうか」
ペアルックという言葉が何時頃から存在したのか知らないが、一瞬及び腰になってしまったのは、やっぱり弟への引け目からくるものだろうか。
ここで引いてはいけないと気を取り直している俺に、デフテロスが期待に満ちた目で告げる。
「さっそくそれを着て出かけないか」
「…鍛錬にか?」
「街へに決まっているだろう」
ばさりと俺にヒマティオンを被せながら、弟はぽつりと続ける。
「覚えているか?昔、二人で世界にここにあるのだと示そうと約束をしたのを」
……
忘れるわけが無い。
「示すのが力でなくとも、一緒に陽の下にあることを、世界に知らしめるのが俺の夢だった」
俺が途中で約束を捨て、一人高みを目指していた間もデフテロスは昔のままの約束を大事に抱えていたのだ。
二人で並んで街道を歩く。それだけのことが許されなかった過去。
それを思えば、兄として叶えないわけにはいかない。
「フン、たまには大きな街の市場で買い物するのも良いかもしれんな」
素直に返事の出来ない自分が少し情けなくなるが、デフテロスは嬉しそうに自分もヒマティオンを纏い、俺に手を差し伸ばしてくる。

お揃いの服を着た同じ顔の双子が、手を繋いで買い物なんぞした日には皆の視線がとても痛いような気がするのだが、十数年間浴びつづけた弟の視線の威力に比べれば、物のかずにもならない。

…ならない筈だ…と俺は自分を鼓舞して弟の手を握り返した。

(2009/12/1)


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