アクマイザー

後遺症


弟の心を真っ直ぐにぶつけられ、俺たちの諍いが杳馬によって歪められたものだと知った今、もうデフテロスに対して疑心暗鬼を持つ必要はない。
全てが杳馬のせいというわけでもなく、互いに対して思うところが無かったとはいえないが、それとてこれからはきちんと話し合えば良いのだ…その筈だ。
キラキラと輝く視線で犬のように抱きついてくる弟に、俺を追い落とそうとする邪心などない。それくらいは判る。だから、この体勢に何故か危機感を覚えるのは、闇の一滴の後遺症だ。そうに違いない。今まで邪険にした分も、俺から歩み寄らねば。
しかし、何だか顔が近い気がする。
「デフテロスよ」
「何だろうか、兄さん」
「俺は何故、狭いソファーでこのように抱きしめられているのだろうか」
「すまん、確かに狭いかもしれない。ベッドへ移動しよう」
「……ここでいい」
俺は一生懸命、心の闇に抵抗する。ここで弟を畏れるのは間違いなのだ。何だか逃げ出したくなり始めている俺のほうがおかしいのだ。
ぎゅっと背中に回された手が俺の服を掴み、弟の体温が感じられる。
その体温が馴染んでくると、意外と心地いい。
ほら、やはりデフテロスは悪くない。
杳馬のせいで、反射的に弟を疎ましく思う癖がついているのかもしれない。そんな悪癖に打ち勝つため、俺もデフテロスの背中へと腕を回した。

しかし、やっぱり何かの罠に嵌っているような気がするのは、俺の心から闇が抜け切っていないせいなのだろうか。

(2009/12/17)


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