アクマイザー

輪郭


俺はカノン島でひとり暮らす事になった。

誰もいない場所で、デフテロスという輪郭を際立たせることなど簡単だった。比較する他人など存在しないのだから。
ただ閑静な環境は、人間に囲まれて暮らしていた頃よりも、己の中のアスプロスの影を浮き上がらせた。いつでも兄と共にあるのが当然の生活を送ってきたせいで、少しでも気を抜くと兄の気配を身体が追ってしまう。そのことが、いかに兄の影響下にあったかを俺に自覚させる。

俺はまず己の中のアスプロスを殺す事から始めた。思い出の中に現れる兄を何度でも殺した。兄の血がどんどん心に溜まっていって、真っ赤なマグマのようになった。白い画用紙を黒のクレヨンで塗りつぶすがごとく、アスプロスの影響を消していく。そのうち、兄の幻影を殺しても何も気にならなくなった。

次に何とかしなければいけないのは、脆弱な過去の自分だ。兄の欠損からくる孤独を嘆く心、兄を想う未練、子供の頃の俺、そんなものは強さには必要なかった。兄と同じように何度でも俺の中の俺を殺した。そうしていくうちに心の中には今の俺しかいなくなって、輪郭はどんどん強固になっていく。もっと心を支配しなければ。何ものにも揺らがない自我と力を。来るべき俺自身の戦いのために。
必要なのは強さだけだ。

「君は人のために力を奮う彼がうらやましいのだろう」

だのに、今になって現れたアスミタの霊はそんなことを言う。
お前たちの指摘を受け入れて俺は影である事をやめ、自分の輪郭を磨き、戦いに備えて邁進してきた。力も手に入れた。自身のため、そして宿敵であるあの男と戦うためだ。それは他人のためなどではない。もう俺は揺らがない。


しかしアスミタがそう言うのであれば、本当はうらやましいのだろうか?
死んでしまった乙女座は笑うだけで何も答えない。

(2009/11/14)


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