アクマイザー

スウィートプラン5


一方、タナトスとサガは都会の雑踏をものともせず、二人の空間を作りながら歩いていた。
片や人間は平伏して道を空けるのが当然と思っている死の神タナトスであり、片や元教皇として聖域で道を譲ることなどなかった黄金聖闘士である。二人の素性など知るわけのない一般人たちも、何故か彼らの発するオーラの前に近づく事が出来ずに遠巻きとなり、進む歩道は二人の専用通路と化していた。
なにせ下手をすると避けるだけではなく、跪いて拝みたくなる気分にさせられるのだ。海の代わりに人の群れを割るモーゼ状態を不自然と思わないのは当の二人だけで、すれ違う人々はほぼ全員タナトスとサガの二人を何者なのかと振り向いている。
他人の視線など気にする二人ではないが、今日は姿を変えられているサガが首を傾げた。
「タナトス。皆にじろじろ見られている気がするのだが、ちゃんと私は女に見えているのだろうか」
「それは問題ない。大方、お前の美貌に見とれているのであろうよ」
「若い女性の目を惹いているのは、貴方だと思うのだがな」
そう言いながらタナトスに寄り添い、腕を組む。
見た目は美貌の二人でも、会話内容は単なる馬鹿ップルだった。
ちなみにサガは姿に合わせて言葉遣いを女性的な言い回しに改めるという発想が全く無く、そのせいで『凄い美人だけどもしかしてニューハーフ?』という疑問を却って周囲に湧かせているのだが、惚気合戦をしている二人は気づく由も無い。
そうして二人の向かった先は、瀟洒なオープンカフェであった。
ここでもまた、華やかな二人の登場で先客たちがざわめく。
優雅でありながら鋭い刃のような気配で他者を圧倒する美男美女の二人連れが、一体どのように知的な会話を交わすのであろうかと、周囲の人間が聞き耳を立てたのも仕方が無い。
どのような宝飾品よりも美しく身体を飾る青みがかった銀髪を、指先で優美にかきあげながら、傾国の女性(と周りには見えている)が頬をそめて口を開いた。
「…その、タナトス。大変なことに気づいた」
「何だ」
相手の男はタナトスという名前なのか?それは芸名か渾名かハンドルネームか?街中でその名で呼ぶとは勇者だな…といった感想の周囲の空気などお構いなく、サガは言葉を続けた。
「これでは男子トイレに入れない」
「そんなことか。数日くらい我慢しろ」
給仕をしにきたウェイターが隣でコップを取り落としたが、タナトスもサガも気にしない。
「人間の生理はそんなに都合よく出来ていないのだ」
「お前達(人間)には、わざと粗相をさせるような文化もあるのだろう」
「そんなプレイを文化とは言わん!」
頼むからもう黙ってくれと心の中で泣いて頼むギャラリー達だった。


その頃、アイオロスとカノンとシュラは悪戦苦闘に疲れ小休止を取っていた。
憤りを通り越して無表情になっていたシュラが、ふとアイオロスに尋ねる。
「思ったのだが、わざわざ実在の男を女性化させるような精密な幻覚に頼らずとも、適当な幻覚で誤魔化せばよいのでは?受付の者が女性だと思い込めば良いだけで、俺達を女性に見せる必要はないだろう」
「うん、そうだね。俺も途中でそれに気づいた」
アッサリと返され、シュラは聞き間違いかと一瞬無言になる。
横で聞いていたカノンも同じように無言でアイオロスを見た。
「では、何故そう言ってくれなかったのですか」
「いやなんかカノンが頑張ってくれてるし、上手く行ったら面白いものが見れるかなと思…」
ヒュン、と風を切る音がして、シュラのエクスカリバーが閃いた。聖域最強と謳われる反射神経で避けつつも、斬られたアイオロスの前髪が数本風に舞う。
「ちょ、ちょっとシュラ?目が怖いぞ?」
逃げ腰のアイオロスの服を、がっしと掴んだのはカノンだ。
「てめえ…オレの努力と能力をなんだと思ってんだ」
その努力と能力を兄のデート追跡に利用している事は棚に上げている。
恐ろしく目のすわったシュラが、カノンに捕まったアイオロスへ迫った。
「ホテルの予約は俺がします。宿泊者名はアイオロスで良いですね。同行者はカノンで良いですね。女名ですしね」
「ええー」「何!?」
アイオロスとカノンの両方から不満の声が上がるも
「それで良いですね」
触れた物を全て斬り捨てる勢いのシュラを目の前にして、それ以上の異議は唱えられない二人だった。

(2008/9/29)


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