アクマイザー

スウィートプラン4


「「「………」」」
ネット画面を覗き込んだ三人は、一様に無言となった。
皆の胸に去来する思いは、表現の違いはあるものの、おおむね同じだ。
「このプランを使うために男女カップルの振りを…?」
「せこいな二流神…」
「カップル…カップルなのか彼らは…」
最後に呟いたシュラが、何か深いところでどんより気力を失っている。
ヒットポイントを大幅に減らしつづける後輩を放置して、カノンとアイオロスは考え込んだ。
「ええと、このプランを利用するには、俺たちもカップルの振りをしなければならないってことかな」
普段であれば『ふざけんな』の一言でアイオロスを殴るであろうカノンも、苦悩の表情で言葉を選ぶ。
「オレもある程度幻影は使えるからな…タナトスと同じように、お前らのどっちかを女性に変形させて部屋をとるしかないか」
「変形とか言わないでくれ。君が化ければいいだろう」
「無理言うな。双児宮での幻惑とて、別場所から作り出したのだ。自分で化けて、自分で外からの映像をコントロールするのは難しいんだよ。他人からどうみえるのか調整しないと」
突っ込み役のシュラは隣で撃沈しているため、会話を止めるものがいない。
ちなみに「カップル限定格安プラン」というホテル宣伝の場合、実際にカップルかどうかという事や、カップルの性別などをホテル側でチェックする事はまずないし、そもそも普通は「カップル限定」ではなくカップル向け「室数限定」「期間限定」という意味だ。
しかし、勘違いしたままのカノンとアイオロスは、部屋を予約するため真剣に悩んでいる。
「じゃあ俺よりシュラがいいんじゃないか?身長が1番低いし体重も1番軽いし」
「確かに、お前で実行するより難易度が低そうに思える」
手段を選ばない先輩二人の会話が、引き返しのつかないところまで来ている事にシュラが気づいたときには、女性化の幻影を被る役は勝手に決定されてしまっていた。
「な…帰らせてください!」
シュラは本気で主張したが、カノンとアイオロスも本気だった。

しかも不幸なことに、カノンは常識的なイマジネーションしか持っていなかった。どんなに頑張っても、シュラをまともに女性化した映像を浮かべられないのだ。
「カノン…シュラはショートのままでいいんじゃないか」
「髪を伸ばせば女っぽくみえるかと思ったんだよ」
「まず体格が男のままになってるけど。胸もないし」
「オレの想像力の限界を超えてるんだよ!!お前が思い浮かべてみろよ!その映像をテレパシーで読み取って形にしてやるから!」
「ええ?それじゃあ…」
「アイオロス。こっち見ないでくれませんか」
ぴきぴきと額に青筋を浮かべるシュラの堪忍袋の緒も、そろそろ切れそうになっている。
シュラの女性化映像作戦はその後も1時間ほど無駄に続けられ、余計なところでタナトスの技量(というか想像力)の確かさに感心させられる三人なのだった。

(2008/9/1)


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