スウィートプラン2
カノンとアイオロスとシュラの三人は、ビルの屋上から街を見下ろしていた。
三人とも珍しく一般社会に馴染む服装をしている。
そんな格好で何をしているのかといえば、本日のタナトスとサガのデート追跡である。
人馬宮で過ごしていたアイオロスとシュラの前に突然カノンが現われて、否応も無く二人を着替えさせ、聖域外へと連れ出したのは昼前のことだった。
シュラが空ろな目で零す。
「何故このようなストーカーじみた行為を我々が…」
隣で聖域の英雄アイオロスも文句を垂れた。
「全くだ。予定は聞いてるのだろう?先回りしてデートに使う施設を片端から破壊したほうが早いのに」
真面目なシュラは、慌ててアイオロスを振り返る。
「アイオロス、不穏な事を言うのは止めて下さい。怪我人が出ます」
「やだなあ冗談だよ。やるならちゃんと中の人間を避難させてからするさ」
にこりとアイオロスは返したものの、その目は笑っていない。
尊敬する先輩の暴走リミッターが外れかけているのを感じて、シュラはこの場から離れたくて仕方が無いのだが、自分以外の二人が暴走した場合、それを止める役がいる。
カノンがアイオロスの発言を受けて口を開いた。
「建物を壊したところで、別のところへ行くだけだ。叩くなら二流神の方をやろうぜ」
物騒な二人に挟まれ、常識人のシュラは泣きごとを言いたくなっていた。彼は強引につれてこられただけなのだが、真面目であるがゆえに激しく貧乏くじをひいている状態だった。
これが本当にタナトスとの純粋な戦闘であったならば、どれだけ楽だったろうかとシュラは内心で零した。
「それにしても見事な幻影だ。二流とはいえ神だけのことはある」
対象をセブンセンシズで追っていたアイオロスがぼそりと呟く。
常人の目では捉えられぬほどの遠方に、タナトスと歩くサガの姿がある。
幻影というのは、サガが女性に見えていることを指す。
タナトスがどういうつもりか、サガが女性に見えるよう幻影を構築しているのだ。
超常能力をもつ黄金聖闘士たちからすれば、薄皮1枚の幻影の下にあるサガ本来の姿を直ぐに見て取れる。だが、一般人たちには神のごとく微笑む美貌の女性に見えているだろう。
不特定多数を相手に、しかも移動しながら場所も限定せず、他者の脳裏へ幻影を見せるという行為はそれほど簡単なことではない。実際に肉体を女へ変化させてしまう方がまだ楽な筈だ。おそらく今も凄まじい量の小宇宙を消費していると思われる。にも拘らず、それをしてのけているタナトスは涼しい顔で、汗一つかいていない。
三人は流石にその圧倒的な実力に気づき、内心では驚嘆していた。
無論それを表面に出すような面子ではないが。
カノンがフンと鼻を鳴らした。
「どこが見事だ。サガが女だったらもっと胸がでかいはずだ」
アイオロスがぼそりと異議を唱える。
「それはカノンの趣味だろう。俺は今位が丁度いい美乳だと思う」
「何だよ、お前はあの二流神と趣味が一緒なのかよ」
「大きければ良いというものではないだろう」
言い争い始めたアイオロスとカノンの横で、突っ伏したシュラがますます遠い目になっている。
「すまんが…俺は帰ってもいいだろうか…」
遠慮がちに主張したシュラの言葉など、二人は当然聞いちゃいなかった。
(2008/8/29)
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