アクマイザー

エプロン


結婚報告をしたのち、最初に贈り物を届けてきたのはヒュプノスだった。可愛いリボンと包装紙に包まれたそれは、人間界のもののようだ。添えられた手紙にも、人間界のしきたりに合わせた旨が記載されている。
サガは喜んだが、タナトスは微妙な顔をした。

「開けても良いか、タナトス?」
「妙な呪術などは仕掛けられておらんようだな…ヒュプノスが贈り物をするなど、何か裏があるとしか思えんが…」

タナトスもある意味形を変えたブラコンであるわけなのだが、長年連れ添っているだけあり、ヒュプノスに対しての評価は正確なものだった。しかし、サガの方はヒュプノスのことをあまり知らない。単純に好意と受け止め、ガサガサと包装紙を開いている。
中から出てきたのは純白のエプロンだった。

「これを着て料理をしろと言う事だろうか」
「死の神は料理などせぬ。よってお前用だろう」

通常ならばつっこみが入るところだが、二人はそれほど人間界の世俗に長けていない。

「裸で着用するものだとカードに書いてあるが…エプロンとはそういうものであったろうか。それとも祭礼時の特殊用法なのだろうか」
「人間界のしきたりに合わせたのだろう?お前の方が詳しかろう、サガ」

首を捻っていても判らないものは判らないので、とりあえず着用してみることにした。箱から取り出したそれは、あきらかに女性用であり、身長が188cmあるサガの丈に合うようには見えない。脱ぐ前に身体の前へそれを当ててみたサガは首を捻った。

「タナトス、サイズが合っていないように思うのだが…」
「オレもそう思うが、ヒュプノスがそのようなヘマをするとも思えぬゆえ、それはそういうものなのであろう」

性格については信用の無いヒュプノスも、そういう面ではタナトスに信頼されている。幸いサガは裸に慣れていた。さっそく隣室で着替えることにして、法衣キトンその他を脱ぎ捨てる。
エプロンを着用して、全身鏡に映してみると、丈が短いサイズゆえに、見えてはならないものが下から覗きそうで見えないと言う、ギリギリの裾ラインだ。

「……」
「……」

世間の風俗には疎い二人も、何となく使用目的が察せられて、遠い目になった。正直、引き締まった筋肉の男が着ても、あがるのは色気より変態度のほうだろう。
タナトスがぽんとサガの肩を叩いた。

「お前には全裸の方が似合う」
「…タナトス」

珍しく褒められたと勘違いしたサガが、嬉しそうな顔をしている。
タナトスは内心で、美的感覚だけはヒュプノスよりも自分の方が上だと再確認しつつ、折角なので裸エプロンのサガを頂くことにした。

(2009/4/1)



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