アクマイザー

隣庭に咲く花


目の前には黒髪のサガが、かつて磨羯宮でそうしていたように、けだるげにソファーへ横たわっている。
エリシオンの新居へ尋ねてきたシュラを、黒サガは出迎えるでもなく追い返すでもなく、そうして転がっていた。
シュラもとくに用事があって尋ねてきたわけではない。無言の時間をどうとらえたら良いのか判らず、自分のつくりだした空間の圧力に負けた彼は、とりあえず黒サガに外出を誘った。

「春ですし、花見にでもいきませんか」

口にしてから窓の外に咲き乱れる天上の花々が目に映り、間抜けな誘いであったかとシュラは心の中で自分をなじった。エリシオンでは枯れることの無い花が、つねに目を楽しませてくれる。この離宮の周りにも色とりどりの可憐な花が、うっとうしくない程度に地面を彩っている。毎日それを目にしているサガが、今更花など見たいと思うだろうか。
シュラの心中など知らぬ顔で、黒サガが起き上がった。

「良い場所を知っているのか」
「ええ、アーモンドの樹が群生していて、美しい場所があるのです」

アーモンドは桜に似て、薄紅の花々を咲かせる。ギリシアでは丁度いまが見ごろのはずだ。黒サガが興味をみせたことに勇気を得て、シュラは言葉を続ける。

「エリシオンの花も良いですが、地上に咲くはかない花はもっと美しいと思います」
「なるほど。散ってしまうからこそ美しい…お前はそう思うか」
「はい」

反射的に返事をしてから、シュラはまた後悔した。
今の言葉に嘘は無い。しかし、このサガは、いったい花のことをそう問うたのだろうか。
シュラはソファーへ近づき、黒サガの隣へ座った。

「ただし、全力で最後まで咲ききってこその話ですから。実も結んでもらわないと困ります」

いつ消えてしまうのかわからない、サガのなかの黒の半身に対して、シュラは繋ぎとめるように強くそう語りかける。

「お前は自分のものでもない花にまで、随分と要求が多い」

それでも黒サガは苦笑いをするように、シュラへ寄りかかった。

(2011/4/1)


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