アクマイザー

家庭内意見対立


フウフとなったタナトスとサガではあるが、人間に対する見方や信条については大きく隔たりがある。
神と人とで判断基準が異なるのは当然として、人類抹殺を実行しようとした冥府サイドと滅ぼされかけた人間サイドとでは、正反対の意見となるのも仕方がない。
もともと、タナトスは人間など塵あくた以下と公言してはばからない神だ。聖戦で星矢に敗北し、サガとうっかり結婚して以降はだいぶ改善されたものの、死というだけで忌み嫌われてきた彼の人間への感情はなかなか良くならない。


「大体、ハーデス様が人間を滅亡させようとお考えになられたのは、アテナにも原因があるのだぞ」

タナトスが憮然とサガへ言いつのる。
一方サガも、人間への侮辱はある程度聞き入れるものの、こと女神に関しては黙っていない。

「女神になんの責があるというのだ」
「アテナがポセイドンやハーデス様を幾度となく封印してこなければ、もっと人間に下る天罰は多かったはずだ」
「1度の封印で懲りてくれればいいものを」
「懲りる必要があるのは人間側だ!ハーデス様が死後の恐怖を示すからこそ、人間は罪を控えるのだ。神々が常に健在して神威をしめすことが出来ていれば、もっと人は死後を怖れたろう。考えてもみろ、悪行を成したら必ず罰が下るとわかっていて罪を犯す者がいるか?お前達が神についての啓蒙を怠ったせいで、死後や神を畏れぬ罪人が増えたのだ」
「くっ…それは…し、しかし、ハーデスは全ての人間に罰をなどと言っているではないか。どうせ罰せられるなら、生前に好きなだけ悪を成そうとする者が出るかもしれぬ」
「言っておくが、そもそもは人間みずから己の過ちを正すべきなのだぞ。それが出来ないから神の干渉を招くのではないか」
「…それについては、もう少し長い目で…」
「女神は人間を信じよというが、神話の時代より人間の行いが良くなったようには見えん。一体いつまで待てばよいのだ」
「うう…」

神をも畏れぬ罪人の代表格ともいえるサガの旗色はあまりよろしくない。
しかし、こういう状況になると白サガの意識を押しのけて黒サガが現れるのであった。
髪の色を漆黒に染め、サガの瞳が紅玉の煌きに変わると第二ラウンドスタートだ。

「神のくせに人間の些細な営みも見逃せぬとは狭量な。だいたいにおいて、人間は罪を犯さぬように出来ておらぬ。無茶を言うな」
「開き直るつもりか!」
「人間が不出来だとして、なぜ神が人類存続の可否を決めるのだ。余計な世話であろう」
「塵あくた以下の分際で、人が神の領域まで手を伸ばし、宇宙をも汚そうとするからよ!」
「その塵あくた以下に負けたのではないか…(ぼそ)」
「そ、それは今の話に関係あるまい!」
「大体、地上全ての命を消したら、お前の司る『死』は不要となる。お前の立場はどうなるのだ」
「…うっ、そ、それは」
「わたしは無職の妻となる気はないぞ」

しかし、思わぬ事態が起こった。
引っ込んでいた白サガが黒サガへ憤然と言い返したのだ。

『夫の価値は仕事の有無ではない』
「なんだと、甲斐性は夫の必須事項では」
『わたしはタナトスが無職でも二流神でもヘタレでもかまわん』
「………お前、もう少し言葉を慎んでやれ」
『結婚したからには、困難な折にも寄り添い助け合うのがフウフの勤め!タナトスが役立たずとなり失職した暁には、わたしが養ってやるとも!』

隣でタナトスが涙目になっていたが、もちろん感動のせいではない。


議論では全く意見を変えなかったくせに、サガの扶養宣言でプライドをボロ雑巾にされたタナトスは、ほんの少しだけ地上冥界化反対派へと傾いたという。

(2011/4/1)


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