アクアマリン
6…カノンとソレント
短い聖域での休暇のあと、海界へ仕事に出るとソレントが噛み付いてきた。
「聖域に行くのは構いませんが、何でいつもお兄さんの匂いをつけて帰ってくるんですか。下級兵に示しが付かないでしょう」
「サガの匂い?そんなものするか?」
思わず反射的に腕を上げて匂いを嗅いでしまった。朝にシャワーを浴びてきているのでオレが匂うわけはないし(加齢臭だったらショックだ)、大体サガの匂いって何だ。
「しますよ。貴方は聖域へ行くと、違う匂いをさせて戻ってきます。例えばその髪。サガの匂いがついてます」
「は?もしかして洗髪剤のことを言っているか?」
ソレントが何に文句をつけているのか判らなくて、本気で首を傾げる。
「なぜ朝から貴方とサガの髪から同じ匂いがするんですか」
「そりゃ同じ洗髪剤使うからだろ」
「下手な言い訳ですね。何故わざわざサガと同じものを使うんです」
「いや、サガと同じっていうか、聖域の支給品だから全員同じだぞ」
「…え?そうなのですか」
ちょっとソレントの攻撃が弱まった。
「昔はオレの存在を隠していたし、サガと差異をつけるのはまずいってのもあった」
「それは昔の話ですし、今は自分用のものを置いてもいいのでは」
「宮に備え付けの洗髪剤があるのに、わざわざ聖域外まで出て別のを買う理由などないだろう…というか、それは贅沢だ。訓練生や雑兵のほとんどは任務以外での聖域抜けを禁止されている。そんな中で上の者がチャラチャラしては示しがつかん」
「はあ…なるほど…」
ソレントは態度を改め、少し考えたあと頭を下げてきた。
「すみませんでした。貴方に失礼な邪推をしたようです」
「は?邪推??」
「何でもありません」
ソレントはそのまま行ってしまった。サガの匂いをつけてきたら何が邪推なのか…と考えかけ、別のことに思い至る。
「なんであいつがサガのシャンプーの匂いを知ってるんだ」
時々海界へ降りてくるサガが、海闘士と交流のあることは知っているが、思っている以上に仲良くなっているのかもしれない(サガは外面だけはいいし)。
あとでポセイドン神殿本宮の執務室へ顔を出したら、ソレントが詫びのつもりなのかアルムドゥードゥラーを出してくれた。
(2011/10/25)