アクアマリン
5…対戦ゲーム
「シードラゴンの部屋に、テレビが…?」
カノンの宮へ足を踏み入れたバイアンは、ぽかんと文明の利器を眺めた。
もちろんバイアンとてテレビくらいは知っている。
ただ、それがこの神話の世界ともいうべき海底神殿にそぐわないことと、今までのカノンの部屋が殺風景のきわみであったことを併せると、なにやらとても違和感を覚えたのだ。
「テレビだけではないぞ」
答えたのはサガだ。シードラゴンの兄である彼は、時折カノンに会いに海界へ降りてくる。ポセイドンの許可は得ているので海将軍が口を挟むことではないが、聖域にシードラゴンを自由に入らせる女神といい、海底神殿へジェミニを自由に入らせる海皇といい、おおらか過ぎだとバイアンですら思う。
そのサガが指差したのは隣に置かれたゲーム機。
もちろんバイアンとてゲーム機くらい以下略。
唖然としているバイアンへ、苦笑を浮かべたサガが言い訳めいた説明を始めた。
「このようなものを持ち込んだ弟を許してやってはくれまいか。これはわたしのせいであるようなのだ」
「そうなんですか?」
「わたしが弟を待つあいだ、暇だと考えたのだろう。わたしは本でもあれば問題ないのだが…」
よく見ると、ゲーム機のとなりにソフトが幾つか置いてある。
バイアンはゲームをするジェミニを想像してみた。これまた違和感のあることこの上ない。
一体カノンはどのようなゲームを持ち込んだのかと覗き込んだバイアンは、思わず笑みを零した。
どれも対戦ものばかりなのだ。
サガだけのためであるのなら、違ったセレクトもあるだろう。
これはカノンがサガと対戦したり、サガが海界人と交流したりすることを前提に置かれたものなのだ。
ゲームに疎そうなサガは、そのことに気づいていないかもしれないが。
(まあ、自分とて詳しくないけれども)
内心で呟きながらも、バイアンはここにいない海将軍筆頭の顔を思い浮かべる。
「シードラゴンは、貴方のことがとてもお好きなんですね」
そういうと、サガは驚いたような顔をしたあと、照れたような、それでいて嬉しさを押し隠すような、慎ましい笑みをバイアンに向けてきた。
「せっかくだから、何人か呼んで遊んでみませんか?」
バイアンはソフトのなかから人生ゲーム的なものを摘みあげ、サガの了承をとると、さっそくイオとアイザックにテレパシーで呼びかけた。
(2011/8/24)
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