アクマイザー

自賛批判


エリシオンに与えられた離宮で、サガが言葉どおり浮世を忘れて寛いでいると、不機嫌そうなタナトスがやってきて長椅子へどかりと腰を下ろした。
突然の来訪はいつものことなので、サガは慌てず神酒と酒肴の用意をして銀盆に乗せる。
「また人間界へ?」
「ああ、人間どもが大量に仕事を沸かせてくれたのでな」
おそらくどこかで内乱でもあったのだろう。サガは眉を潜めた。
タナトスは構わず吐き出し続ける。
「散々自分たちで醜く争い殺しあっておきながら、オレの来訪を忌むべきものと唾棄する。そのくせ最後には人間賛歌だの生命の尊さだの持ち出して誤魔化そうとする。アテナあたりが言うのならばともかく、人間がそのように言うのは単なる自画自賛であろう。そのような事は世界中から争いを無くしてからほざくが良いわ」
望まぬ死の訪れを歓迎する者など、そうはいないだろう。タナトス側からすれば理不尽なことではあるので、忌まれ続けたその怒りを人間にぶつけ、見下すのは仕方のないことなのかもしれない。
サガはタナトスへそっと酒杯を渡した。
「貴方を称えるわたしも愚かだろうか」
「なに」
「生を讃えるも死を称えるも、わたしには同じに思える」
「…」
「それに、神々同士ですらやまぬ争いを、貴方の言う愚かな人間に終止符をうてなど、それは無理と言うもの」
「…フン」
タナトスが受け取った杯へと神酒を注ぎ、サガはタナトスよりも一段低い床へと座する。
「人間を、わたし達を見捨てないでくれないか」
そう言って見上げるサガから視線を逸らし、タナトスは黙って酒を呷った。

(2009/11/24)


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