アクマイザー

捩れたカルマ2



「俺にはどうしても信じられんのだ」
アイオロスが深く溜息をつきながらカノンに告げた。
二人は向かい合わせに椅子へと座り、難しい顔をしながら顔を突きあわせている。
「兄はオレよりも深い闇を飼っていた。オレの言葉をきっかけにして、それが表に出てきても不思議はない」
どこか翳りのある表情で、カノンも答える。
「しかし…お前の兄は、サガは、それでも女神に刃を振り下ろす事が出来なかった。俺が駆けつけた時だって、俺の拳をわざと受けて…」
アイオロスはそこまで言って、言葉を淀ませた。
「カノン、お前は俺が憎くはないのか。お前の兄を手にかけてしまった俺を」
らしくもなく視線を逸らして、ぼそりと呟くように問うアイオロスにカノンは苦笑した。
「お前も言ったろう。サガはわざとお前の拳を受けたのだと。あいつはお前の手を借りて自害したのだ。お前のせいではないさ」
それでも、カノンの声には深い苦悩の声が混ざる。
「それに、サガが冥闘士になったのはオレのせいかもしれん。オレの馬鹿な言動が、サガをあんな風に…」
改心した今、彼はかつてサガに囁き続けた悪への誘いを深く後悔していた。
しかし、それはもう取り返しの付かぬ過去だ。
「カノン…」
アイオロスは言葉を見つけられず、名を呟いたものの口を噤む。
サガとカノンの過去に何があったのかを、アイオロスは深く知るわけではない。ただ、ときおり語られる寝物語で断片的に聞いた限りでは、兄と弟のどちらも不器用ながら、互いを大切に想いあっていたように感じていた。
双子の間には他人に計り知れぬ絆があり、他人が安易にその関係を評して良いようにも思えない。
それゆえ、アイオロスはカノンが自ら語ってくれる以外を追求した事が無かった。
何も言わぬ代わりに、アイオロスは椅子から立ち上がるとカノンの側へと周り、慰めるように軽くチュっと額へキスを落とす。そのまま頭を抱え込むと、彼の腕の中でカノンは苦笑した。
「オレを責めないのか、アイオロス」
「お前のせいではないと思っているし、たとえそうだとしても責める意味がない。それにお前だって俺を責めないじゃないか?」
「…お前は甘い奴だよ」
その甘さという名の優しさが、自分を改心させたのだとカノンは思う。
アイオロスはカノンの髪を指で弄んでいる。
「なあ、カノン」
「なんだ?」
「俺にはやはり信じられん。サガは確かに闇を持っていたかもしれないが、光のごとき正義感も本物だった。そうでなければ、黄金聖衣に選ばれるはずが無い」
カノンは暫く黙ったあと、小さな声で呟いた。
「…サガのこと、そう言ってくれてありがとな」
女神に刃を向けた上に、冥闘士となったサガのことを良く言うものなど、聖域には殆どいない。
黄金聖闘士の誉れに泥を塗った反逆者として、その名を口に出す事も忌まれるほどだ。
その弟であるカノンへの風当たりも当然のことながら強かったが、戦場におけるカノンの働きが目覚しい事と、教皇アイオロスが彼を補佐として重用していること、そしてなにより逆賊のサガに閉じ込められていたという過去がカノンへの風当たりを弱めた。
幽閉の理由を知るものはアテナとアイオロスしかいない。そのため、人々は血を分けた弟を閉じ込めたサガを鬼のように評し、カノンへは同情の視線を向けたのだった。
『サガは神のような振る舞いで皆を騙した偽善者だった。全く最低な奴だったよ』…人々が手のひらを返したようにそう噂する時、カノンは怒りで全てをなぎ払いたくなる。
本当の事を話すと叫んだ彼を制止したのは、教皇の座を継いだアイオロスだった。
「礼を言われるといたたまれんぞ、カノン。聖戦を前に、聖域での混乱を防ぐため、お前に真実を伏せてくれと頼んだのは俺だ。お前の兄を必要以上に貶め、お前に負担を強いている俺を怒っても良いのだ」
その言葉を聞くと、今度はカノンが腕の中から顔をあげ、アイオロスの頬へと口づけた。
「教皇ってのも因果な仕事だな。だが、オレはお前に従う。お前は思ったとおりに聖域を治めろ。細部はフォローしてやる」
「…ありがとう。頼りにしているよ、補佐殿」
二人は顔を見合わせて笑い、そして覇気を取り戻した顔で聖域の布陣についての打ち合わせに入った。

2008/6/11


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