足を舐めろ
「おい、サガ」
長椅子へ尊大に腰をかけているタナトスが、何やら思いついたようで、サガに声をかけた。
サガはといえば来客用の茶菓子を用意しようとして見つからず、隠してあったカノンの酒で賄おうとしているところで、酒杯とともにそれを銀盆に乗せタナトスの元へ戻る。
「なにか?」
カノンの酒ならば上質であろうと勝手にあたりをつけて、サガはそれをテーブルへと置く。
カノンには後でつまみでも追加して買い直して謝れば良いと考えているあたりが、いつものサガではない。
タナトスもそれは分かっているものの、しかし己の側の態度を変えるつもりは無く、逆にいつも以上に隷従を強いた。
「もてなすつもりならば、酒などよりも、跪いてオレの足を舐めろ」
さらりと無茶をいうのがタナトスである。
しかしサガはその手の定型句に疎かった。微妙な顔をしながらも、タナトスの足元へ屈みこみ、履いているサンダルを脱がせ始める。当然タナトスが突っ込んだ。
「舐めろといったら、履物の上からにきまっておろう」
「外履きなのだぞ、汚いではないか。そもそも自分の靴を舐められて嬉しいのか?」
サガも直球で疑問を零す。タナトスに対しても遠慮がない。
「そこを敢えて舐める事によって忠誠の高さを示すという様式美だ!」
言葉に出して説明すると、とても間が抜けてしまうが、説明しただけタナトスにしては親切だ。だがこのサガは空気も読まない。
「わたしの忠誠先はお前ではないし、たとえ女神であろうと靴先は舐めない。私の忠誠は、そんな方法では測らせない」
「お前は善の半分に習って、もう少し歯に衣を着せることを覚えろ…こら、足をくすぐるな!」
そう、今日タナトスを目の前にしているのは、珍しく白のサガではなく統合しているサガなのだった。
機嫌を悪くしかけたタナトスの足からサンダルを外し、くすぐって弄んでから、その足先へと軽く口付ける。
「靴の中身ならば、もっと存分に舐めても構わぬが」
低い声で笑い、長めの前髪の間から見上げてくるサガの瞳を覗いたタナトスは、何となく身の危険を感じ、黙ったまま自分でサンダルを履き直した。
(2009/9/14)
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