アクマイザー

終焉回帰


死の神の来訪にも最近は慣れ、女神のお目こぼしに感謝しつつ迎え入れる。タナトスは双児宮を『とり小屋』と称しながら、来客用のソファーの真ん中にふんぞりかえるのが常だ。エリシオンの離宮の数々に比べれば確かに狭いかもしれないが、もともと戦闘用の守護宮に仮住まい用の施設がついているだけなのだから、これでも充分広いほうだと思う。そう伝えたら『広さだけの話ではない。お前という鳥が飼われている場所だからだ』と返された。『うさぎ小屋と言い換えても良いぞ』と提示されたが、お断りする。どうもタナトスの中でのわたしは、動物とそう変わらないように思う。
タナトスが望むので、わたしもソファーの端へ腰を下ろして膝を貸す。一体、誰かに膝枕などをした記憶を探るには、何年遡らなければならないだろうか。まだ黄金聖闘士たちは子供ばかりで、純粋に女神をお守りすることを目指していた遠い昔。あの頃まで遡っても、膝を貸すほど親しかった相手は…ほとんどいない。そのうちの一人は汚名を被せて殺してしまったし、もう一人は水牢に閉じ込めて追いやってしまった。
聖戦後に皆生き返ってはきたものの、全てが元通りとなるわけではない。多分、もうわたしに触れてくるものなど居ないと思う。
「サガ」
タナトスがわたしの名を呼び、膝から見上げる瞳と視線が絡む。
かの神の瞳には瞳孔が無く、不思議な銀色の意思が満ちている。
「オレを前にして、他のことなど考えるな」
その言い分がまるで人間のようで、知らず微笑みが零れた。
全てを想いの外へ置き、死だけを見つめる。
「生きていた頃のお前に優しかったのは、死(オレ)だけだろう」
そんな事を言うタナトスの頬を静かに撫で、わたしは心の中で蘇生後何度目かの生へのさよならを告げる。今しばらくは黄金聖闘士の手も必要だろうが、そろそろ体制も戻りつつある。
聖域が再建されたのちには、そっと彼の元へ帰ろうと思った。

(2009/9/13)


[NEXT]


[BACK]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -