アクマイザー

アンチウイルス


◆修復方法


回線の切断によって、オレが閉じ込められた事は明白だった。
このままでもサガを汚染するには充分だが、ウイルスであるオレの真価はインターネットを通じての感染拡大だ。いくらサガに命じてパスワードを得たところで、それを外部へ繋ぐ手段がなければ、手足をもがれているも同じ事だ。
「サガ!ここからだぜ!」
叫んでみても、サガは電気節約などといってスタンバイ状態になってしまっている。代わりにシュラが返事をしてきた。
「IME(日本語変換システム)は壊れていないはずだが…?」
「うるさい、言い間違えただけだ。それにオレはATOK派だ」
むしゃくしゃしてきたので、サガの個人フォルダを勝手に漁ってみたものの、アダルト画像の1枚もない。恥ずかしい映像でもあれば、それをネタに脅してやろうと思ったのに、我が兄ながらつまらない奴だ。何が楽しくてネットに繋いでいるのだ奴は。
シュラがオレの行動を見て、呆れた顔をしているのがまたムカつく。
大体、閉じ込められたとしてもサガと二人だけならばそれも良いと思う。
だが、何でこいつが当たり前のようにサガの傍にいるのだろう。
シュラはオレに対しても、当然のごとく話しかけてきた。
「カノン。書き換えた箇所を俺に教えてはもらえまいか」
「はあ?」
「アップデートをしない限り、俺には修復方法も判らない。だが、お前が書き換え部分を教えてくれたら、どうにかなると思うのだ」
今度はオレが呆れの視線を向ける番だった。こともあろうに、こいつはウイルス本人に修繕方法を尋ねようとしているのだ。
「お前は金で雇われているだけの有償ソフトだろう。金の分だけ働けばいいんじゃないのか」
すると、シュラはこんな事を言い出した。
「俺は昔、バグで数多のパソコンを稼動不能にした事がある」
それは聞いたことがあった。いまサガがされているのと同じように、メモリを圧迫させて落とすという、ウイルス顔負けの活躍だったらしい。その時は有償ウイルスソフトなどと言われ、かなり批判もあったように思う。
「だがサガは、そんな俺を信じてくれたのだ…俺はサガに応えたい」
真摯に話す口調は実直そのままで、何となくオレは目を反らした。
ああくそ、ムシャクシャする。
「サガは貴方のことも、信じていると思う」
「うるさい!」
オレは、汚染部分の修正方法をウイルス定義ファイルにまとめて、シュラへと叩きつけた。

2009/5/22

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