アクマイザー

アンチウイルス


◆回線遮断


サガのシステムを手中に収めたオレは得意満面だった。
「兄さん。これからは、オレの言う事だけ聞いていれば良い」
コマンドプロンプトも叩き潰してある。サガはもう自分で処理を実行する必要はないのだし、こんなものいらないだろう。他人が兄さんに命令するのも不快だ。オレだけが兄さんに成すべき事を囁くのだ。
メモリ使用率を強制的に100%近くまで上げられたサガは、オレの腕の中で動く事も出来ずぐったりとしている。もう少し余裕を持たせてやるか。どうせ兄さんの動向は、トラフィックを通じてオレに筒抜けなのだから。
シュラのアップデートを防ぐため、アンチウイルス系のHPには繋げないよう細工は済んでいる。あとはサガに囁いて、幻朧魔皇拳効果のある迷宮を双児宮へ展開させるだけだ。そうすれば、双児宮を訪れた者もサガと同じ運命を辿る。

もう怖いものは何もない。
勝利に浸るオレの耳に、それまで黙っていたシュラの声が聞こえた。
「…サガ」
兄を呼ぶその声色には、微妙に先ほどまでと違う感情があった。
その声と共に、ざわりと空気が変わる。
異変はシステムチェックをするまでもなく目の前にあった。
サガの髪が、ゆっくりと漆黒へと変わっていく。オレは目を見張った。サガのセイフティーモードが立ち上がったのだ。再起動もしていないのに。再起動自体、オレの支配下で出来るはずもないのだが。
サガが顔をあげる。その瞳は紅く、強い意志と傲慢なまでのプライドが垣間見える。
「カノンよ、随分と好き勝手にしてくれたようだな」
静かな怒りに気おされそうになり、僅かに怯んだ。
「な、何が悪いのだ。兄さんのスペックとオレの感染力があれば、世界の支配など容易いだろうが!」
サガはオレの顔を長い間じっと見つめていた。それから視線を移し、護衛の名を呼んだ。
「シュラ」
ただそれだけだと言うのに、シュラは頷き、そしてサガの身体へむけて手刀を放つ。
「な…なんだと!?」
オレは叫んだ。シュラはこともあろうに、ルーターの回線を物理的に切断したのだ。サガの方はご丁寧にも、ISDNドライバを消去している。
「馬鹿な、それではネットに繋げなくなってしまう…他の者を感染させることが出来なくなる!やめろ、サガ!」
慌てるオレに反比例するかのように、サガは楽しそうに笑った。こんな時でもサガの笑顔は綺麗だった。
「私のカノン…お前には、私だけが居れば良かろう?」
傷ひとつない両腕が伸ばされ、オレの首に回される。

サガの世界に閉じ込められたオレは、呆然と抱きしめられていた。


2009/5/20

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