アクマイザー

JUNK2008


◆朝食2

「おはようございます」
まだ陽も明けきらぬ時間に麿羯宮へ押しかけてきたカノンへ、シュラは丁寧な挨拶をした。年上であるカノンに対して、基本的にはサガやアイオロスに対するのと同等の礼儀で接しているシュラだ。
随分早い時刻の来訪だとは思いつつ、外泊した兄を迎えに来たのだろうなと予測をつける。そしてその予測は外れることなく、カノンの第一声は『サガはどこにいる』なのであった。
「奥の部屋にいるが…」
答えるや否や、カノンは教えられた部屋へ踏み込んでいった。
止める間もない。
別に止める必要などないのだが、奥の部屋ではサガがまだ眠っている筈だ。安眠を妨げられたときの彼の不機嫌を知っているシュラとしては、少しだけカノンが心配になったのだ。
そんな心配をよそに、カノンは部屋の中を覗くと何もせず凄い勢いで戻ってきた。
顔面を蒼白にして。
それだけでなく、殴りかからんばかりの気配でシュラの襟元を掴みあげてきた。
「おい、何でサガがお前の寝台で裸で寝てるんだ」
シュラにしてみれば、黒サガが寝床を占有したうえ、寝着への着替えも面倒とばかりそのまま服を脱いで眠ってしまうのはいつもの事である。何故と言われても答えようが無い。
「いつもの事だぞ」
正直に言うと、カノンの顔色がさらに白くなった。
カノンはシュラの襟元から手を離し、今度は静かに尋ねた。
「いつから寝てるんだ」
それは正確には「お前はいつからサガと寝てるんだ」の略であったが、シュラにとっては想像の外にある内容であったため、「サガはいつからあんな風に麿羯宮で寝てるんだ」と自動的に脳内変換されている。
「大分前からだが、堂々と寝に来るようになったのは聖戦後だ」
「…そうか」
カノンにしてみれば、1つしかない麿羯宮のベッドを、守護者であるシュラが使用出来ていないという事のほうが想像の外である。サガとシュラの行為の翌朝に自分が闖入したのかという、躊躇といたたまれなさが相まって、怒りの勢いが多少削がれている。
「…言いたくなければ答えなくてもいいが、どっちが上なんだ」
そんな即物的な問いも、カノンからすればどうしても聞いておきたい一点であった。サガから求めたのか、シュラから求めたのか、それによって心の痛みの方向性が変わる。
だが、勿論そんなカノンの心のうちをシュラが理解するはずも無い。
シュラは勘違いしたまま、立場の話であろうと推測し、それゆえ思うところをきっぱりと述べた。
「サガが上にきまっている」
同じ黄金聖闘士という地位に戻ってはいるものの、同輩という一言では括れない特別な存在がサガだった。シュラにとって彼は元教皇であって、元偽教皇ではない。
シュラの気迫にカノンが目を見開き、それから溜息をついた。
何だか非常に落ち込んでいるように見えた。
「…久しぶりに海界から双児宮に戻ってきてみれば、サガは留守で…従者に行き先を聞けばお前の所だという。オレなんかよりお前と寝るほうが大事なのだな、サガは」
見るからにしゅんと萎れている。そんなカノンを見て、シュラは首を傾げた。
「いや、サガはいつも一人で寝ているが…?」
未だにカノンの言うところの『寝る』の意味を勘違いしたままではあるものの、その言葉でカノンが固まった。
「さっきお前、サガのが上だと言っていなかったか」
「当たり前だ。俺の方が後輩なのだし。先ほどから一体何だと言うのだ」
「………いや、何でもない」
己の勘違いに気づいたカノンが、蒼白だった顔を今度は赤くして口ごもっている。
ふと気づくと奥の部屋の方から、いつの間に起きたのか黒サガが何か呆れたような顔でこちらを見ていたので、シュラは彼にも丁寧な挨拶をした。
黒サガは黙って近寄ってくると、カノンとシュラの頭を撫でたので、シュラはますます訳のわからぬまま、一緒に朝食を摂るようサガとその弟を誘った。


2008/12/31

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