JUNK2008
◆君死にたもうことなかれ
君死にたもうことなかれ
東洋の詩人がそんな事を書いたらしい。
そのような当たり前の感情を正しく述べることの出来る女子供が、弱きものが羨ましい。
何故なら私は戦う者で、兵士を戦いへ送り出す者でもある。
戦争が始まらずとも、私は人殺しだ。
私にはそのような願いを口にする権利がない。
私はつい先ほど、弟を水牢に閉じ込めた。
そうしなければ、弟はこの聖域にあだを成したろう。
改心すればよし、そうでなければ弟は海に沈む。
私のたった一人の弟が。
「わたしはすべての人々に神のように慕われている…そんなわたしが なぜ次期教皇ではないのですか…」
掟を冒してまで禁区スターヒルへと登り、シオン様へと問うた。
私は全てを捨てても、正しき道を歩もうとしてきたつもりだ。
それでも まだ私には徳が、資格が足りないのだろうか。
シオン様はおっしゃった。
「おまえの魂にはとてつもない悪魔が住んでいるような気がしてならんのだ」
断罪の言葉に、眩暈がする。
私の光はどこにあるのだろう。
(ははは!弟を海に沈めてまで貫こうとしたお前の正義は、認められなかった!)
耳元で嘲笑する声がする。この声はカノンか、それとも。
君死にたもうことなかれ
そう願いながら、私は愛する者たちに手をかける。
(さあ、完璧であったお前の世界に、綻びが出来たぞ)
私の中の闇がシオン様を殺めて聖地に血を流す光景を、私はどこか遠くからぼんやりと見ていた。
2008/12/13
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