アクマイザー

黄金の薔薇


目の前に立ちふさがった魚座の聖闘士アフロディーテを、タナトスは最初、足下に踏みしだく雑草程度にも見ていなかった。
ただ、美の女神の名を持つほどの美貌と、それに見合う絢爛な小宇宙が、彼の気を惹いた。
黄金聖衣を身にまとい、周囲に深紅の薔薇を従わせるその姿は、人間であれタナトスの審美眼に充分適うものであったのだ。
女性にも見まごう花のかんばせをタナトスへ向け、魚座の主は畏れることなく毅然と言い放つ。
「いま双子座は体調を崩している。死の神である貴方の来訪は、ただの風邪をも重篤なものとするだろう。申し訳ないが、引き返しては頂けまいか」
丁寧ながらも、神への言上としては腰の低くないその態度を、常であればタナトスは不遜と切り捨てたろう。だが、今日の彼は怒ることもなく、面白そうにアフロディーテを見下ろした。
「なれば、お前がアレの代わりを務めるか」
毛色の違う玩具を見つけた時の子供のような、無邪気で残酷な視線。
タナトスが死の小宇宙を強めると、周囲に咲き誇っていた薔薇は黒ずみ、急速に萎びて花弁を散らせていく。アフロディーテは眉を潜め、我慢できぬというように、表情を一変させて言い放った。
「あの人がお前を受け入れているだけでも業腹だというのに、この私まで望むだと?寝言は貴様の兄弟神の前だけにしてもらおうか!」
怒りで黄金の小宇宙がチリチリと弾ける。
アフロディーテの小宇宙はさらに光を増し、聖域のアテナの小宇宙を取り込んで膨れ上がった。そして、そのまばゆい小宇宙は茨の蔓を伝い、見る間に薔薇の花を咲かせていく。
それは、アテナとピスケスの小宇宙の混じりあった、輝く黄金の薔薇だった。
小宇宙とは命の真髄。
その光で咲く花の結界は、死の神タナトスの顔を顰めさせた。
アフロディーテの小宇宙だけであれば難なく吹き飛ばせたであろう花陣も、ここ聖域で、アテナの小宇宙を土台にされては分が悪い。タナトスであればこそ踏みとどまっているものの、凡百の魔物程度であれば消し飛ぶであろう威力の封魔陣なのだ。
「成る程、それが十二宮最後の防御を任された者の実力という訳か」
タナトスは肩をすくめ、自らの小宇宙を納める。
それに合わせ、アフロディーテのほうも薔薇の香気を沈めた。
だが、タナトスは一矢返す事も忘れない。
「サガに伝えるが良い。治り次第エリシオンへ足を運べと」

黄金の薔薇も、人の心に根付いた魔を払う事までは出来ない。
アフロディーテは無言で毒薔薇を投げつけ、それへの返答とした。

(2009/5/8)


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