アクマイザー

JUNK2008


◆小宇宙

「私がもしも、世を統べる神であったなら」
サガは自分の膝を枕にして転がっている星矢へ話しかけた。
「やはり人間を滅ぼそうとするかもしれない」
「それは、ハーデスの言うように、人間が堕落しているから?」
膝元まで流れ落ちるサガの髪を指で絡めながら、星矢は話に付き合う。
「滅ぼす建前としては、そのように言うかもしれないが」
話しつつ彼が後輩へと向ける目つきはとても優しく、穏やかなものだ。
サガがこのように接触を許し、内面を語る相手はごく限られている。
「人の持つ小宇宙を恐れて、そうすると思う」
「サガだったらそんなことしない」
かつて反逆者として大罪を犯し、聖域に君臨していたサガを星矢は打ち倒した。しかし現在そんなことは何でもなかったかのように、星矢はサガへ接する。
傍から見れば、先輩へと甘える後輩という図式に見えているかもしれないが、実質その構図に甘えているのは元罪人のサガであり、その事を理解しているサガは、誰よりも星矢に対して優しく接した。
「有難う」
星矢の応えに対して、外面だけではない神のような笑顔を見せる。
「星矢、お前は象と蟻が純粋に力で戦った場合、どちらが勝つと思う?」
「そんなのは象に決まっているだろ」
きょとんと見上げる後輩の額にかかっていた髪を、サガは指先で整えてやる。
「本来であればそうだ。生物が持つ力の差は、覆らないのがこの世の理であり、弱肉強食の仕組み」
だが、とサガはいう。
「小宇宙はその順列を叩き壊す。どれだけ物理的な差があろうと、命を燃やす事によって種の強弱を埋めてしまう力だ。この力によって人は神に迫る」
「確かに、人間が神を倒せるのは、小宇宙のお陰だもんなあ」
「そして、その小宇宙を引き出すのは、人の愛」
サガは星矢の額へ軽く口づけを落とした。
「私が神であれば、人の愛を恐ろしいと思うだろう」
「そうかな。サガはこの世に怖いものなんてないように見える」
星矢は目を丸くしたものの、直ぐに笑い返した。


2008/10/23

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