JUNK2008
◆二兎を追う狩人
「俺が教皇になったら、サガがその地位でやりたかった事を、代わりに全部やってあげる。だから俺の補佐にならない?」
そう言ってニコニコと見つめるアイオロスへ、黒サガは負けずに笑顔で返したが、その視線は鋭い刃のようだった。
「傀儡政治の誘いとは面白い事を言う」
「いや実権を渡すつもりはないけど」
「『私』が執行せぬ権力に何の意味がある」
「世界平和の実現なんて、誰が実行しても同じだと思うけど」
黒サガは目を細めた。
「私が世界の平和を望んでいると思うのか?」
「ああ」
アイオロスは少しも迷わずに答える。
「サガはそういう男だよ。だから右腕に欲しい」
「他を当たれ。女神の命ならばまだしも、貴様に従う気は無い」
黒サガの返事も早かった。
ここのところ、毎日のように双児宮へやってきては、手を変え品を変え黒サガを誘うアイオロスだったが、戦果は今ひとつだ。現状はその掛け合い自体を楽しんでいるところもあり、断られても全く気にしていないものの、少し戦法を変えてみようかと次期教皇は目算した。
「他を当たれ、ね…じゃあ誰が適任だと思う?シュラとかどうだろう」
山羊座の名が出た一瞬、黒サガが表情を硬くしたのをアイオロスは見逃さなかった。
「シュラを、貰ってもいい?」
「私に答える権限はない。それはあの男が決める事だ」
にべもなく切り捨てるも、その声には僅かな戸惑いが混じる。
(ぶっちゃけ、二人とも補佐に欲しいんだけどね。さて、どう攻略したものか)
落とし甲斐のある獲物を目の前にして、射手座の主は楽しそうに相手の急所へ狙いを定めた。
2008/10/16
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