アクマイザー

JUNK2008


◆認識

サガの部屋は、いつも整えられて塵一つ落ちていない。
心が壊れてしまっても、そんなところは変わらないのだなと俺は感心する。
部屋に入ってしまってから、俺は横手で形だけのノックをした。サガがようやく来訪者に気づいて振り返る。
昔のサガであれば、こんな至近距離になるまで他人に気づかないなんて、ありえなかったのに。
「アイオリア」
サガが嬉しそうに俺の弟の名を口にした。
俺と弟は確かに似ているけれど、双子のサガとカノンとは違い、識別できないほど似通っているわけじゃない。
単に、サガの中で俺という存在が消されてしまっているだけだ。
サガは座っていた椅子から立ち上がると、おぼつかない手つきで来客へ茶を出そうとしている。選んだ紅茶は、アイオリアが好むものだった。
俺は黙ってそれを見ていた。
サガがどこか調子の外れた声で、歌うように呟く。
「まだ、私を殺さないのか?」
それは、ごく当たり前の挨拶のように、サガの唇から紡がれる。
「私はお前の大切な兄を殺してしまった。だから、お前には私を殺す権利があるのだよ」
そうしてサガは、俺には決して見せることのなかった柔らかな親愛の笑みで、今日も『アイオリア』を見る。


2008/9/10

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