アクマイザー

JUNK2008


◆ねずみの国

サガとフランスのねずみーらんどで会う約束をとりつけたアイオロス(14歳)は、ギリシア人には珍しく約束の定刻10分前に、テーマパークの象徴ともいえる城前で相手を待っていた。
13年間分世間に疎い英雄は「一般社会の世間的な感覚に馴染みたい」「市井を知るのも上に立つものの努め」「現世情の説明役としてサガが同行すること」という強引な主張のままに、公費でデート兼リゾート休暇を勝ち取っていたのだ。
しかし、肝心のサガの方がまだ到着していない。
「遅いなあサガ…」
大らかなアイオロスが心配したのは時間のことではない。真面目なサガが時間に遅れるような事態が発生したのかという危惧によるものだ。
サガはアイオロスから視察(という名の職権乱用)の話を聞いたとき、怒りはしなかったものの、そのような理由で執務を休むことを善しとせず、神官議会に出たあとに付き合うと言っていた。
しかしどのような経緯であれ、交わした約束に遅れたりしないのが彼だ。

不安になりはじめたアイオロスの脳裏に、タイミングよく小宇宙通信が届いてくる。
(すまん、アイオロス。会議が今終わったのだ。直接そちらへ向かう!)
どうやら職務が長引いただけだったようだ。
アイオロスはほっとしたものの、直ぐに『いやまて』と思い直す。
(ちょ、サガ、直接って!?)
慌てて返す心話は間に合わず、目の前に瞬間移動でサガが現われた。
「待たせてしまったな」
「サ、サガ、その格好…」
「格好がどうかしたか?」
「何で法衣のままなのだ!」
「着替える時間がなかったのだ。待ち合わせに遅れるなど論外だからな」
このような大勢の人前へのテレポ使用についてだとか、国境超えでの入国手続きはどうしたのだとか、ねずみーらんどへの入国手続きもどうしたのだとか、突っ込みたいところは山ほどあったが、まず何とかしなければならないのは、サガの服装だとアイオロスは遠い目になった。
「別に問題ないだろう?ロドリオ村へもよくこの格好で出かけていたが、何か言われた事はないぞ。それに今日は私的ながら視察と聞いた。ならば法衣で充分だろう」
「いやいやいや!」
そう言っている間にも、ただでさえ目立つ容姿のサガの周りに人が集まってきている。
彼らは明らかに、中世の時代から抜け出たような異国の法衣姿のサガを、何かの新しいアトラクションのスタッフだと勘違いしていた。
皆がカメラのシャッターを切り始めると、サガが流石に気づいて周囲を見渡している。
「アイオロス、何か皆が写真を撮ってくれているようだが」
「撮ってくれているのではなく、それは…って、ああああああ!」
人を惹きつける才能を無駄に持つサガが、皆に応えるべくにこりと微笑んだ。
ただでさえ神のごとしと喩えられた容姿とスマイルが一般人を直撃する。小宇宙など感じることの出来ぬ観光客も、周囲がまるできらきらと輝きだしたかのような錯覚を覚え、サガを取り囲む人の輪は何倍にも増した。
園内での予期せぬ騒動を制止すべきスタッフたちも、あまりの神スマイル効果に見惚れてしまい、研修生を連れてきては「あれを手本とするように」「無理っすよ!」などという会話を交わしている。
何故か拝みだした老人夫婦が出るに到り、アイオロスは慌ててサガの手を引いてねずみの国から逃げ出した。
「どうしたアイオロス、視察はしないのか」
突然園外へ連れ出されたサガは、まだ判っていなさそうな顔をしている。
「世俗を学んだ方がいいのは、オレよりサガだ!」
思わず叫んでしまったアイオロスなのだった。


2008/6/17

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