アクマイザー

JUNK2008


◆調律…(カノンベースなサガ)

海界から戻ったオレは、宮にいるべき兄の姿がないことに首を傾げた。
「サガ?」
声を掛けたものの返事が無い。
(出かけているのだろうか)
そう思い、小宇宙を高めてサガの気配を辿ると、探すまでもなく寝室の方から反応があった。いつもであれば、直ぐに「おかえり」と出迎えるサガにしては珍しい。
『兄弟であっても、日常における挨拶を交わすのは大事なけじめだ』と、しつこいくらい押し付けてくるのが鬱陶しいと思っているのに、迎えが無いとそれはそれで寂しいと感じるあたり、相当サガに毒されてきたのだろうか。そんな事を思いつつ、様子を見に部屋へ足を運ぶ。
閉じられた扉の前で一応ノックをしてみた(これも、サガの躾によるものだ)が、返される応えは無い。
オレは仕方なく、そのまま扉を押し開けた。中に見えたのは、寝台の上へ身体を丸めるように沈め、荒い息を零して苦しむサガの姿。
「おい、どうしたんだよ!」
流石に慌てて駆け込み、まずは手のひらによる触診でもって体温を計る。熱は無い。
しかし、その額にはじっとりと汗が滲み、触れた手を湿らせる。
意識があるのかと頬を軽く叩くと、その衝撃に気づいたのか、うっすらとサガがまぶたを開いた。
「カノン…おかえり」
こんな時でも挨拶優先なところがサガらしい。
「おかえりじゃねえよ、どうしたんだ一体!何で人を呼ばないんだ!」
病気であれば聖闘士の自然治癒だけでは追いつかないだろうし、自分の手にも負えない。
緊急の通信を飛ばそうと小宇宙を高め始めると、汗ばんだサガの手がそっとそれを抑えた。
「違うのだカノン…」
「何が違うのだ、医者を呼ぶぞ!」
「これは…統合の調子が悪いだけで…医療では治らん…」
途切れ途切れ苦しそうに吐き出すサガは、他人には治せないものだと告げた。あまりに白と黒の波長が遠い時に、無理に一つになろうとすると、拒否反応が出るのだという。
「そのうちに、治まる…」
「しかし!」
苦しそうなサガの波動はこちらまで伝わるほどだ。
合うべきものが合わないような、もどかしく気持ちの悪い、それでいて切裂かれるようなこの感覚。
これを本人であるサガは何百倍も強く直に感じているのだろう。
「統合が苦しいってのなら、解けばいいだろ!」
思わず叫ぶと、サガは乱れた髪の合間から微笑んだ。
「私は、一つになることから、逃げてはならない…慣れなければ」
その瞳の色は紅く点滅しているようでもあり、青く澄んでいるようでもあり、なかなか定まらない。
カノンは兄の身体ごと抱き起こすと、睨むように顔を覗き込んだ。
「無理に型に嵌める必要はない。どんなお前だって、お前だろうに」
サガは目を見開き、それから小さく笑った。
「…お前も…どんなお前であっても、私のカノンだ」
白くなめらかなサガの指が伸びてきて、オレの頬をなぞる。
それから、倒れこむようにオレの胸に顔を埋めて、背中へと手を回してきた。
「カノン…少し、こうしていても良いか」
「ああ」
何をしたいのか、オレは直ぐに気づいた。
サガと同じオレの小宇宙は、サガを安定させる効果があるのだ。
統合による精神の乱れを、オレとの接触で癒しているのだろう。
オレの小宇宙はいわば調律の基調となる指針のようなもの。だから指針であるオレが悪の方に振れれば、サガも悪に流れる。過去の経験でオレはそれを知っていた。
「無防備にオレと同調して、また流されると思わないのか?」
そう言ってやったものの、サガが離れる気配は無い。
「お前を信じている」
胸元で即答されて苦笑する。昔はこの信頼さえ正義の押し付けと思ったものだが。

幼かったあの頃とはまた別の意味で、この優等生な兄を流してみたいと思いながら、オレはそっとサガの頭を抱きしめた。


2008/3/11

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